第1話 不思議な調律師
なんだろう。この不思議な音楽。
オルガンの音?なんていう曲だろう。
すごくきれい。初めて聞くのに、どこかなつかしい。
どこからきこえてくるんだろう。
あの扉の向こうから。誰かいるのかな。
私は扉にてをのばした。
ピピピ、ピピピ、ピピピ
ーカチャ
もう、朝。おきなきゃ。
私はゆっくりとベッドから体を起こした。
「恋雪ー!おきてるー?」
「うん!おきてるー!」
いつも通りの会話。いつも通りに学校に行く準備をする。
朝食を食べて、いつもの占いをみる。
何も変わらない一日。
でも。でも今日は、何かが起こりそう。
「あの夢、なんだったのかな。」
ちょっとワクワクしながら、家を出た。
学校に行く途中ー
あの不思議な音楽が聞こえた。夢の中で聞こえたものだ。
(どこからなっているんだろう・・・)
私は、学校に登校中ということを忘れて、音楽の聞こえてくる場所を探した。
行列のできているパン屋
老夫婦が営む写真展
最近オープンしたばかりの喫茶店
いつも私の寄る本屋
どこを見渡しても、見つからない。
きょろきょろしながら歩いている女子高生。はたから見たらただの変人だ。
(よく考えたら、この辺に教会なんてないよな・・・)
そんなことを思いながら探しているとー
「ニャー」
・・・猫?
目の前に現れた一匹の猫。その深い海のような藍い瞳と目が合う。
「やあ、ねこくん。」
なんとなく話しかけてみる。もちろん返事など帰ってくるはずもない。
帰ってきたらむしろ恐怖でしかー
「お前、オルガンの音を探しているのか?」
「ぎょえええええ!?」
ね、猫がしゃべった・・・!?いやいや、そんなはずないよね。ただの空耳なはず・・・。
「おい、小娘。音をさがしているのかと聞いている。」
「やっぱりしゃべってる!」
はっ、と我に帰る。いきなり大声を出したのだ。注目を浴びている。
(き、気まずい・・・)
「はあ、まあいい。音楽の正体が知りたければ、ついてこい。」
ね、猫にため息をつかれた。こんなことが人生においておころうとは。。。
とりあえず、この気まずい空気の中から、抜け出さなければ・・・!
先にすたすたといってしまった猫に急いで追いつく。
「ね、猫君。君、いったい何者?」
「猫君と呼ぶな。私にはグリスという名を主からいただいている。それにしても、
お前は不思議な奴だな。普通猫がしゃっべったら腰を抜かすか、気を失うかすると思うのだが。それに、何者かもわからないものについてくるなど。」
「君が言ったんじゃない。ねえ、君はあの音楽の正体を知っているの?」
「・・・」
猫ーグリスーは、黙ってしまった。あ、心配しないでほしい。私は小声で話している。あと、人はいるが、話すのに夢中で誰も私のことは気にしていない。大丈夫だ。この時、私は忘れていた。一応学生であり、今日は平日だということを。
歩き進めるにつれて、どんどん細い路地裏に入っていく。
(こんな道、あったんだ・・・)
新しい発見をしつつ、ちらりとグリスをみた。
種類はロシアンブルー。でも瞳は、吸い込まれるような海の深い色をしている。
ロシアンブルーって、みどりの瞳じゃなかったっけ、と他愛もないことを考える。
首元には青いリボンをしていて、毛並みはきれいに整っている。
きっと、育ちがいいのだろう。
(どんな人が飼ってるのかな・・・イケメンだったらどうしよう。)
そんなことを考えていると、
「ついたぞ」
グリスが扉の前で私に向き直った。
目の前には、洋風の小洒落た小さな一軒家があった。
「ここは、自分の人生を変えるための場所。調律師によってさまざまな人生の色がある。さあ、扉の向こうに行くがいい。」
人生を変える?何を言っているんだろう。そんなことができるはずがない。
それに、仮にできるとして、自分じゃなくて他人がいじるなんて。
どういうことだ。いったい何が起こっているのだ。
誰か、説明してくれ。
「グリス、おかえり。」
中から人が出てきた。若い、男性。イケメンである。
「神楽様、ちょうどいいところに。
ー本日のお客様をお連れしました。」
お、お客様っ!?というか、私の時と言葉遣いが違うぞこの猫。
「これはこれは初めまして。私は、神楽彼方といいます。」
グリスと同じ、深い藍色の目が、私をとらえた。
「なるほど・・・。これは、調律しがいのある音楽だ。」
あなたの人生、調律します。 エト @ft4_conducteur
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