寮生たちとの関係を整理整頓したい

1. もっと甘やかしてもらいたいですぅ! (栗林兎の事情)

「しせ……つ?」

「最近どうにも調子が悪くてのう」

「せめて兎が高校を卒業するまでは面倒を見てあげたかったんだけどねぇ」


 高校卒業までなんて言わずに一生面倒見てよ!


 毎朝優しく起こしてくれる。

 好きなご飯ばかり食べさせてくれる。

 テストの点が悪くても怒らない。

 欲しい物は何でも買ってくれる。


 どれだけ甘えてもどれだけ我儘を言ってもどれだけぐうたらしても全部叶えてくれる最高の環境。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒の激甘生活が永遠に続くのかと思ってた。


 それなのにどうしてこんなことに。


「うわああああん! 嫌だよおおおお! お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒が良いいいい!」

「ワシも兎と離れたくないぞおおおお!」


 ひしぃ!


「まったくもう貴方達は」


 そんなことを言いながらお祖母ちゃんも優しく抱いてくれる。


 でもそのお祖母ちゃんは内臓に病気を抱えているらしくて頻繁に病院に通っている。

 お祖父ちゃんも体中が痛くてまともに歩けない日もある。

 普通に暮らすには限界なのは分かっていた。


 私が中学を卒業するまでと頑張ってくれていたんだ。


 本当にありがとう。


「はぁ……これからここで一人暮らしかぁ」

「いんや違うぞ。春から兎が通う高校は今年から寮が新設されたらしいんじゃ。そこに引っ越しなさい」

「ええええ! この家から離れたくないよぉ!」

「あらそう? でも寮ならご飯が出るしお風呂も準備してもらえるわよ」

「寮にするですぅ!」


 手のひらなんて返すために存在するのですぅ。

 何もしなくてもご飯とお風呂が用意されているなんて最高!


 お部屋の掃除もしてくれないかな。

 朝起こしてくれないかな。

 ゲーム買ってくれないかな。 


 でもやっぱりお祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒が良い。

 寮のサービスの内容がどうとかではなくて、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが好きだから。

 三人でこの家で一緒に過ごす日々がとても幸せだから。


「兎、そんな顔しないで。いつでも会いに来なさい」

「そうじゃそうじゃ。むしろ毎日のように面会に来るんじゃ」


 むぅ、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも凄い心配そうな顔になってる。


 もっと心配をかけさせれば施設に行かないでくれるかな。

 な~んちゃって。

 冗談だよ冗談。

 半分くらいは……


 でもこれ以上無茶させてお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに何かあったら困るもんね。

 ここは心配をかけさせないようにして少しでも長生きしてもらわないと。


 幼い頃から私を育ててくれたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは両親のようなものだ。

 いつまでもいつまでも笑顔で生きていて欲しい。


 だから安心させてあげよう。


「寮なら一人でもちゃんと生活出来るから心配しないで!」


 やっぱり嫌だあああ!


 ぐすん。


 あ~あ、寂しいな。

 寮で友達出来るかな。


 そう軽い気持ちで寮生活のことを考えていたら、とんでもない事態になってしまった。


「男子と一緒に住むぅ!?」


 まさかの寮母さんならぬ寮父さん。

 しかも同い年だって。

 意味が分からないんだけど!


「すまんのう。ただ、家事がとても得意で素晴らしい人格の子らしいから安心して……やっぱり施設に行くのやめる!」

「こらこら、お祖父さん落ち着いて。ごめんね兎、でも兎は独り暮らしなんて出来ないでしょ。だから我慢して頂戴。何かあったらすぐに連絡するのよ」


 私が一人でまともに生活出来ないことをお祖母ちゃんにはちゃんと見抜かれている。

 お祖父ちゃんだけならチョロいんだけどなぁ。


 それにしても、せっかくの寮での悠々自適な生活が台無しだよ。

 男子が一緒に住むだなんて、絶対にエロいこと考えているに決まっている。


 ひ弱な私を強引に辱めて写真や動画に撮って脅されちゃうんだ。

 学校でも寮でも毎日のように呼び出されて言いなりにされちゃうんだ。

 あんなことやあんなことやあんなことまでされちゃうんだ!


 気持ち良いのかな……


 じゃなくて、そんなの嫌!

 むしろ私の方が好きなタイミングで好きなことを、じゃなくて、うん、気をつけないと!


――――――――


 引っ越し当日。


 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとの涙涙のお別れを済ませ、これから寮に向かう。

 前髪で顔が隠れてるかな。


 私って可愛いから素顔を見せると男子が寄って来て煩いんだよね。


 変態寮父さんに気に入られたら脅迫監禁エロエロ生活になっちゃう。

 悠々自適な生活を守るためにも絶対に屈しないんだから!


「いやああああ! 犯されるうううう!」


 はぁ、はぁ、なんとか逃げられた。

 なんか無害で優しそうな人に見えたけれど、そう見える人の方が危ないってよくある話だもん。

 油断なんかしないよ。


 でもどうしよう。

 あの人から逃げるってことはご飯を食べられないってことだよね。

 お風呂も怖いから入れないよね。


 あ、あれ。

 もしかして私、完全に自力で生活しなきゃダメなの?


 そんな!

 無理無理無理無理!


 誰か甘えさせて!


 コンビニご飯、シャワーだけ、部屋は汚く、誰も起こしてくれないから必死で起きる。


 お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ここは地獄だよ。


 一か月も経ってないけど、もう無理。

 でもそんなこと言ったら心配かけちゃう。


 うわああああん。

 どうしたら良いの?


 そう思っていたある日のこと。


「ちわーっす。ご飯食べにいこ」

「へ?」


 同じ寮生の禅優寺さんに強引に部屋から出された。


「いいやああああでええええすうううう!」


 その先はエロ漫画の世界に通じてるんですぅ。

 ダメですぅ。


「大丈夫大丈夫」

「大丈夫じゃないですぅ!」

「禅優寺さんは騙されてます!」


 でもどれだけ叫んでも彼女は離してくれなかった。

 陽キャ怖ひ。


「うわああああん! 睡眠薬飲まされて犯されて写真撮られて言いなりにさせられて何度も中に出されて子供作らされちゃうの嫌ああああ!」


 なんて徹底抗戦したのに、気付いたら目の前には熱々のオムライス。


 お、美味しそう。

 ううん、ダメ。

 これは罠だ!

 何かを入れているに違いない。

 サーって感じで。


 そして眠った私の服を脱がしてあれこれする気なんだ!

 もしかしたら気持ち良くなる薬が入っていて前後不覚にする気かも!


 どっちにしろこれを食べちゃダメ。


「ん~~~~!うまっ、うまっ!ほら、二人とも食べないと損だよ。こんな美味しいのお店でも中々食べられないんだから」


 いただきまーす!


 何これ!?

 外食で食べるのより美味しいんだけど!?


 今までこんな美味しい料理を食べ逃してたの?


 良く見たら寮父さんって優しくて真面目そうな人だ。

 こんな人がエロエロなことするわけないよね。

 というかこれが毎日食べられるならされても……


 決めた!

 この人に甘やかしてもらうんだ!


「ね、美味しかったでしょ。寮のご飯を食べないなんて勿体ないよ」


 本当にその通り。

 これまでの自分をぶん殴って炎上させてやりたいな。


「美味しくなかったですぅ」


 あれ、私何言ってるんだろう。

 すごく美味しかったのに、なんで天邪鬼なことを……


「うっそだ~。兎ちゃんあんなに美味しそうに食べてたじゃん」

「美味しくなかったですぅ!」 


 しかも必死になって否定しちゃった。


「ええと、それじゃあ栗林さんは明日から夕飯を食べに来ないのでしょうか」

「食べるですぅ」


 そんなの食べるに決まってる。

 これを食べてからコンビニ飯に戻るなんて拷問だもん!


 でも、あれ、どうしてだろう。


 美味しいって言うのに抵抗がある。


 その理由に気付いたのは寮父さん、ううん、春日さんのおかげだった。

 慣れない一人暮らしでお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いたくてホームシックになっていた。

 春日さんがわざわざお祖母ちゃんの料理を調べて作ってくれて、それを食べたら途端に寂しさがぶわあって溢れて来て気付いたんだ。


「栗林さんに一つアドバイスがございます」

「…………」

「僕達はまだ子供ですから、精一杯甘えて良いのではないでしょうか」

「…………え?」

「きっとお祖父ちゃんもお祖母ちゃんもそう思ってますよ」


 そっか。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにまだ甘えても良いんだ。

 寮での一人暮らしは寂しいって伝えても良いんだ。


 心配をかけたくなかったけれど、心配をかけても良いんだ。


 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行っても良いんだ……


「うっ……ひっぐ……ひっぐ……ありがどう。うわああああん!」


 ヤバすぎですぅ!


 私のホームシックの理由を見抜いて実家の料理を作ってくれるとか、惚れさせに来ているとしか思えない。

 実際、ちょっとだけキュンキュンしちゃった。


 もうダメ。

 春日さんにもっと甘やかしてもらいたいですぅ!


 朝起こしてもらって、洗濯もしてもらって、お風呂の準備もしてもらって、部屋の掃除もしてもらって、後は……エッチな気分も解消してもらったりして、ぐへへ。


 でもそのためには障害がある。


 私の他の二人の寮生。

 彼女達が夕飯以上のサービスを稼働させるのに反対するだろうし、私だけが恩恵に預かろうとしても危ないからと止めてきそうだ。


 春日さんにはなんとしても二人を堕としてもらって、たっぷりと甘やかしてもらうんだから!

 そして一生面倒を見てもらうですぅ。

 家事が得意で優しい男の子とか、絶対に養ってもらいたい運命の相手ですぅ!

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