第9話 探偵団始末記 二日目

翌日、木曜日。


昨日の反省から、菊美が "怪しい場所を見つけ、そこを調査しよう"と提案し、 3 人はあれこれ考えた結果、彼女を翔太の自宅近くにある古い工場に案内した。

住宅街のはずれにあるそれは、人影なくひっそりと佇み、入り口の錆びれたドア が風に揺れキイキイと嫌な音をたてていた。


「自動車の整備工場だったんだ。2~3 年前に潰れちゃって」


翔太はそう言うと周りを見回し、こう付け加えた。


「夜になると、女の人のすすり泣きが聞こえるって噂がある」


翼と卓也がごくりと唾を飲み込む。

菊美は ”犯罪の匂いがするやん“ と強気に言うが、その表情はこわばっている。

4 人は錆びたドアを開け、寄り添うように固まり工場に侵入した。

中は意外に狭く、整備に使っていたと思われる工具や自動車の部品らしきものが散乱している。遮光になった陽の光が割れた窓から差し込み、蜘蛛の巣にキラキラと反射していた。


「おい、あれ何だ?」


卓也が指差す方を見ると、部屋の隅に鉄のドアが見える。

4 人は足音をたてぬように近づき、菊美に促された卓也が恐る恐る扉を開けた。


窓がなく、陽の光が届かない密室は真っ暗だ。


卓也はすぐに扉を閉め “ここはヤバイ” と青い顔で言った。翔太が “やめようぜ” と後ずさりする。

菊美は “ちょっと待ちいや” と言いながら、ランドセルの中からペンライトを取り出した。“探偵七つ道具や” と自慢げに言うが声が震えている。

菊美は “これであんたが 先に行きぃや” とペンライトを翼に渡した。


「な、な、なんで僕?」


思わず大声を出した翼に、3人が同時に ”シー!“ と顔前で人差し指を立てると ”早く行け“とばかりに顎を突き出す。

翼はしぶしぶライトを点灯させ、鉄のドアを開け先頭で 部屋の中に入った。

細長いライトの光に無機質なデスクや椅子が照らし出された。

事務室のようだ。

色あせた書類や紙切れに混じって、何故かアダルト雑誌が捨てられている。

その時、翼は誰かに見られているような気がして立ち止まった。

ドキッとしてペンライトを向けると、壁に水着を着た女性のポスターが貼られていた。大きな胸を両腕で挟むように前かがみとなり、セクシーな笑みを浮かべている..

フゥ~と大きく息を吐き、さらに進もうとした翼は、腰のベルトをギュッと握る小さな手に気づいた。振り向くと、不安げな表情の菊美が翼にぴったりとしがみついている。暗闇の中で彼女の長い睫毛がすぐ近くに見えた。

菊美の後ろから “おーい、どうした?” と翔太と卓也の怯えたような声がした。

翼は “何でもない、もう少し進むぞ” と言って再び歩き始める。

恐怖心よりも、 寄り添う菊美の存在が心臓の鼓動を早めた。

すぐ後ろに菊美がる..


「ちょっと待て、何かあるぞ」


皆の1 番後ろにいた翔太が緊迫した声を出した。

3 人は振り向き、翼が翔太の足元にライトを向ける。

ボロボロのカバンが落ちていた。


菊美が “翔太、開けてみいや” と言う。


皆でカバンを囲みしゃがみ込んだ。翼がライトで手元を照らし、翔太がカバンのジッパーに手をかけ、開け....

ないで、 “やっぱやだよ” と泣きそうな顔で言った。


「しょーがねーなぁ」


翔太 の代わりに卓也がジッパーを一気に引いたその瞬間!!

カバンの中から何かが大量に飛び出してきた。


「ウワァー!」


4 人は悲鳴をあげ一斉に走り出し部屋を出ると、一目散に逃げ出した。

入り口の錆びたドアを体当たりするように開け、外に転がり出る。そして、敷地の隅にある大きな木の下まで全力で走った。

菊美が肩で息をしながら “な、何なん..あれ?” と泣きそうな声で言った。

卓也が “茶色いコオロギみたいな..” と言いかけると、 “やめてくれ、思い出す!” と 翔太が体を震わせた。

とその時、翼の肩からその茶色いコオロギのようなもの が一匹、ピョンと飛び跳ねた。


「ギョエ~ッ!!」


4 人の叫び声が廃墟に響き渡った。


これが、探偵稼業二日目の出来事‥。



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