第5話 オムライスLOVE

その夜。


翼は自分の部屋にこもり、理解に苦しむ菊美の言葉をパソコンで調べ ていた。


ふむふむ、なるほど。 コナン・ドイルというのは、シャーロック・ホームズを書いた作家 さんなのか。

江戸川乱歩は、怪人二十面相シリーズなどの探偵推理小説家で、明智小五郎は二十面相をやっつける探偵なんだ。変装名人の怪盗と名探偵か..面白そうだな。

なになに..あいつの言ってた「どうもすみません」は、林家三平と いう落語家のギャグ..昭和の爆笑王と呼ばれた..何でそんな古い人のギャグ使うんだ?? おっ、今テレビに出てる三平さんは二代目なのか。ふ~ん。


その時玄関が開く音がして、華やかな笑い声とともに階段を上ってくる足音が 聞こえた。


「つばさちゃ~ん、ただいまぁ~」


ほんのりと頰を染めた葵が機嫌よく顔を出し、その背後から金髪のロングヘア ーが覗き込み、翼に声をかけてきた。


「渋谷でちょっとママと飲んでて..遊びに来ちゃったよーん」


葵がよく仕事を一緒にするスタイリストの萌子さんだ。ペコリと頭を下げる翼に葵が言った。


「ご飯ちゃんと食べたぁ?」

「うん。今日はオムライスにした。ママのも作ってあるよ」


翼の言葉に葵は “さんきゅう~” と言って、萌子と階段を下りていった。


翼は萌子を気に入っている。ちょっと派手だがスタイリストだけあってオシャレだし、 時々仕事で買取りになった子供服を翼にプレゼントしてくれる。


萌子が残した、少しきつめの香水の匂いがする子供部屋で、翼は再びパソコン に向かった


「赤でいい?」


ワインボトルを手に振り向いた葵に “いいよー” と返事をしながら、萌子は銀の シガレットケースからタバコを 1 本取り出して咥えた。ライターで火をつけながら葵に向かって言う。


「葵と翼ちゃん見てると、何だか母子家庭がステキに思えるわ」


葵はワインを注いだグラスを萌子に手渡すと “つばさがいい子だからねぇ” と 言って、ダイニングテーブルの上に視線を向けた。


ケチャップで「おつかれ ママ」と書かれたオムライスが置かれていた。

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