第3話 こんな女で どーもすみません


1 時間目が終わると、クラス中の女子が雪竹菊美を囲み質問攻めにしていた。

大阪のどこから来たの? お好み焼き作れる? 東京初めて? etc


翼たち 3 人は、遠巻きにそれを眺めている。翔太が翼の腕を突く。


「ちょっと変わってるけど、可愛いよな」


翼は全く同意できない。あのダサいファッションと関西弁、おまけにさっきか ら聞こえてくる “ウヒャヒャヒャ“ としか表現のしようのない笑い方..

声を無くしている翼の隣で卓也が言った。


「隙を見て話しかけてみようぜ」


そのチャンスは昼休みにやってきた。


休み時間の度に彼女を囲んでいた輪は徐々に小さくなり、給食を食べ終わると、転校生はひとりぽつんと椅子に座っていた。


翔太と卓也が目で合図を送る。翼は仕方なく後に続いて彼女の席に向かった。

3人で雪竹菊美の前に立つ。卓也が口火をきった。


「オレ、海堂卓也。こいつは滝沢翔太で、隣が櫻木翼。よろしく」


菊美は3人をジロジロと見上げると、突然妙なポーズと共に奇声をあげた。


「シェー!」


ギクリとする卓也、翔太、翼。


「3人ともむっちゃ男前やん!」


ニカっと笑う菊美に、翔太が顔を引きつらせながら言った。


「な、何だ。おそ松さんか!?」


その言葉に菊美が感心するようにうなずく。


「さすが東京もんは丁寧やなぁ。おそ松くんをさん付けで呼ぶんや」


??? 3人は顔を見合わせる。


「東京では何が流行ってんねや? あんたら何が好きなん?」


菊美の言葉に、翔太が気を取り直して答えた。


「春休みに3人で、名探偵コナンの映画を観に行ったんだ。コナン好き?」


菊美の目が輝いた。


「おお、コナン・ドイルか!ホームズの映画やってるん?東京は」


「コナン・ド、ドイル??..いや、じゃなくて、江戸川コナン..」

「江戸川乱歩!!」

「いやいや..コナン知らないの? 毛利小五郎とか..」

「明智小五郎やろ?」

「....」


菊美と翔太の会話は全く噛み合わない。

全身から脱力感を漂わせる翔太に向か って、菊美は申し訳なさそうに言った。


「堪忍な。ウチ、まだ東京ようわからへん」


“コナンに東京も大阪もあるかい!”


翼は心の中で思い切りツッコミを入れたが、 初めて見る菊美のしおらしい表情に少しドキリとした。


“何だ、黙ってたらちょっと可愛いじゃん“


と、その時いきなり菊美が席から立ち上がり、3人の目の前で片手をグーにして額にあてた。


「どーも、すみません。なんちゃって!」


3人がのけ反り、菊美がウヒャヒャヒャと笑った瞬間、昼休みの終わりを告げる チャイムが鳴った。

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