10-3.まだ見つからない。何かを見落としているのかも……?

 俺は義母さんのスマホに電話をかける。


『はい。美空だよ』


 義母さんではなく、美空さんが出た。

 義母さんが車を運転中だからだろう。


「みーちゃんは電車に乗って、永田駅へ向かってる。

 駅員が行き方を聞かれたのを覚えてた。

 さすがに梧桐町から永田行きの経路を聞く子が、何人もいるとは思えないし、みーちゃんだと思う」


『分かった。可能性高いと思う。行ってみる価値ありだね』


 俺が電話している間に、美空がスマートフォンで到着時刻を調べていた。


「ひー君、あったよ。七時五十分発の急行。九時五分に永田駅へ着く」


「分かった。……もしもし、美空さん。みーちゃんは九時五分着の電車に乗っている可能性大」


『ん。九時五分ね。十分後か。……多分、先回りできるって』


「じゃあ、お願いします」


 俺の家と美空の生家は、車で移動すれば東から西へ三十分程。だけど、電車だと北へ向かって三十分進み、乗り換えで二十分待ってから南へ二十五分かかる。合計で一時間十五分も要する。そのおかげで、義母さんの車が、みーちゃんの電車を追い越すことになる。


 一件落着。


 だが、大きな問題が残る。


 みーちゃんにどうやって、両親が居ないという事実を伝えるか……。


 みーちゃんは両親に会いたくて家へ向かったんだから、ただ連れ帰るだけでは納得しないだろう。また同じことを繰り返すかもしれない。


 俺は駅を出て、自転車置き場に歩きながら美空に相談する。


「みーちゃんに、どうやって両親のことを伝える?

 みーちゃんは両親が何処かに居るって信じているはず」


「うん……。

 亡くなったとは言いづらいけど、黙っていても私達の言動からいつか気付いちゃうかもしれないし……。でも、知らないまま元の時間に帰れるなら、そっちの方が幸せなはず……」


「亡くなる日付や状況を伝えて、事故を阻止したらどうなるんだろう」


「え?」


「両親が亡くなることを知るのは悲しいけど……。

 でも、みーちゃんが元の時代で、両親と一緒に過ごせる可能性が生まれるんだよな」


「それは……。確かに……」


「もしさ、みーちゃん達のタイムスリップに意味があって、それが神様が起こした親切だったら、両親を救うチャンスを与えてくれているんじゃないの?」


「そう、なのかな……」


「きっとそうだよ」


「……うん」


 でも、両親が健在だったら、私とひー君が兄妹になることも、会うこともなくなるよね。


 そう美空が呟いた言葉を、俺は聞こえなかったことにした。


 ああ。そっか。


 タイムスリップを起こした存在が居るとしたら、俺にとっては神様じゃなくて悪魔だろうか。


 みーちゃんが両親と幸せに暮らす世界を手に入れたら、そっちの世界の俺は美空と出会う未来をなくすかもしれないんだ。


 でも、そうなったとしても、俺はみーちゃんの幸せを願うよ。


 そして、別の切っ掛けで美空と知り合って、最後は幸せになると思う。


 義父さんと美空の父親が友人だったから、美空は中橋家の養子になったんだし、俺と美空が出会う可能性はゼロではない。親同士の仲が良いんだから、何かの切っ掛けで会うことは十分、あり得る。


 家の距離が離れているから同じ高校に通うことは出来ないけど……。


 そんなことを考えながら自宅へと向かう途中で、義母さんのスマホから電話がかかってきた。


 俺達は歩道の隅に自転車を停め、電話に出る。


「もしもし。みーちゃん見つかった?」


『それが、電車は来たけど、みーちゃんは駅から出てこない。

 一本、乗り遅れたのかも。もう少し、待ってみる』


「分かった」


 通話を終え、俺は首を横に振る。


「みーちゃん、居ないって……。

 一応、美空さん達が駅で次の電車を待ってくれるけど」


「うん。聞こえてた……。

 もしかして駅員に行き方を聞いたけど、お金がないから電車には乗れなかったのかな……」


「そういう可能性もあるのか……」


「乗り換えを間違えた可能性も……」


「確かに。岡田駅って、乗り換えは階段で移動するから分かりにくいし」


「うん……。私、小学生の頃、一人で電車に乗ったことないし……」


「でも、分からなかったら岡田駅で駅員に聞くんじゃないか?

 それで乗り換えが遅れて、電車が一本か二本次のになったのかも……」


「うん。そうだよね」


 岡田駅は昨日みんなで出掛けたショッピングモールとは逆方面だ。だからみーちゃんが最初から間違えて逆方向行きの電車に乗ってしまった可能性もある。


 そういえば、と昨日のことを思い返していて、ふと、改札での一件を思いだした。


 昨日は年長組が自動改札の扉に閉じこめられる失態を犯すなか、みーちゃんは俺にお金を催促して、一人で切符を買っていた。路線図も自分で見て、何円の切符を購入すればいいのか確認していた。


 もしかして昨日から今日のことを計画していた?

 電車に一人で乗るための練習をしていた?


 衝動的に飛びだしたわけじゃないとすると、昨日のうちから工夫してお金を確保していた?

 どうやって?

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