10-2.みーちゃんの足取りを追う手がかりを得る
『私のスマートグラスでみーちゃんが家に帰る経路を調べたのは間違いない。
でも、スマグラはネットに接続できないから、バス情報は調べられない。
オフラインのスマグラで検索できる経路はダウンロード済みの地図情報だけ。
電車とかバスの時刻表や経路はオンラインに繋がないと見られないの』
「そうか……」
アプリケーションの仕組みは良く分からないが、要するに家庭用ゲームソフトで例えるなら、ソロプレイのストーリーモードならネット接続しなくても遊べるけど、オンライン対戦モードはネット接続が必須になるようなことだろう。
俺と美空はバス停に着いた。確かに無料の市民バスが出ているけど、愛沢さんはこれに乗った可能性はないと言う……。
美空の自宅がある方へ向かうには市民病院行きに乗る必要があるが、時刻表を見る限り発車時間は九時、十二時、十五時の三本のみ。
現在時刻は八時三十分。周囲にみーちゃんの姿はない。
「バスの可能性は消えたか……」
「ねえ……。
みーちゃんって一度地図を見ただけで家まで帰れるのかな……。
私は、初めて歩く道だったら、スマホがないと目的地に辿りつけないよ」
「そうか……。
全く見当違いの所で迷子になっている可能性もあるのか……。
ん?」
リュックを背負った外国人が二人、手にパンフレットを持って歩いているのが見えた。俺達が住んでいる街は陶芸が盛んなので観光客が多い。そして、駅では周辺の地図やパンフレットを無料配布している。
「駅周辺は道が複雑だけど、地図を見ながら大通りに出てしまえば、美空の家の近くまで数回曲がるだけで行けるよな……?
駅には観光客用の地図がいっぱい置いてある」
さっきゴーグルマップで経路を調べた限り、駅周辺は発展しているから道は多いが、街から離れればルートは単調になる。
みーちゃんが、意外と簡単に行ける、と勘違いしてしまった可能性が――。
「美空。ちょっと駅に行こう」
『ねえ……』
小さいけど周囲の音に紛れない美空ちゃんの声が、歩きだそうとした俺を制止する。
『……みんな難しく考えてない?
昔の私、もっと馬鹿だよ。
スマホ持ってないし、経路検索とか分からないよ。
愛沢さんのスマートグラスで経路検索をした、というところから疑った方がいいと思う』
「でも、使用した形跡があるって……」
『うん。地図アプリに、うちの住所が入力してあったから。
私、今更自分の生まれた家の住所への経路なんて検索しないよ?
みーちゃんが調べたとしか……』
『……みーちゃんは小学一年生だよ?
地図を読みとる知識がない可能性の方が大きいです。
……それに、お金をどうしたのかは分からないけど……電車に乗ったと思う。
乗り方は昨日、覚えたし……。
歩きたくないし、遠くに行くなら、電車だと思う……』
確かに、俺は昨日みーちゃんにお金を渡しただけだ。
券売機を操作して切符を買ったのは、みーちゃん自身だ。
「でも、どの電車に乗って何処で降りればいいのか、みーちゃんは分からないはず。それこそ、検索結果を読みとる知識がないから――」
『駅員に聞くと思う……』
「駅員に聞く?!」
あっ。そうか。その手があったか。
完全に失念していた……。
「私達、ネットで検索することが当たり前になっていた……」
美空も驚いたらしく口を半開きにしたまま、視線を駅舎へ向ける。
「美空、駅の中に行こう」
「うん。二人とも、一旦切るね」
俺達は通話を終えると駐輪場に自転車を置き、駅へと走った。
みーちゃんを見かけたか駅員に聞こうとしたが、ここは無人駅だ。
駅員なんて居ない。
どうしようと相談を持ちかける間もなく、美空は券売機の隣へ向かい、赤いボタンを押した。
あ、そっか。インターホンで有人駅に繋がるんだ。
ピンポーン。
『ご利用ありがとうございます。こちら、明鉄吉橋駅です』
「あの、少し前に、永田駅への行き方を聞きに来た女の子が居ませんでしたか?」
『えっとぉ……』
「妹なんです。一人で先に電車に乗っちゃったみたいで……」
『ああ、はい。そういうことですか。来られましたよ』
……!
みーちゃんだ!
「何時の電車に乗ったか分かりますか?」
『七時五十分発の急行に乗ってもらって、三つ目の駅で降りて二番線のホームに来る電車に乗り換えるようにお伝えしました』
「そうですか。ありがとうございます」
インターホンでの通話終了。
美空が振り返ると、ずっと不安そうだった顔に、微かな笑みがこぼれた。
「電車に乗ってた」
「うん。みーちゃんは永田駅だ」
やった!
みーちゃんの足取りを追う重要な手がかりを得たぞ。
朝から、美空の生家がある永田駅への経路を聞く少女が、何人も居るとは思えない。みーちゃんの可能性が極めて高い。
お金をどうしたのかは分からないが、駅まで来てインターホンを押しているんだから、このまま帰ったとも思えない。
電車に乗ったに違いない。
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