第10話 みーちゃんの行方不明

10-1.みーちゃんの行方を推測する

 俺と美空は自転車に乗り、何度も脇道に逸れながら、愛沢さん達が泊まっていたビジネスホテルへと向かった。

 コンビニがあれば、店員にみーちゃんの写真――正しくは美空の小学校時代の写真――を見せて確認したが、有力な情報は得られない。


 ホテル周辺は愛沢さんや美空さん達が捜索しても見つけられなかったのだから、やはり、この辺りには居ないのだろうか。


 俺達は駅前の空きスペースで自転車を停め、一旦作戦会議。


「コンビニには入ってないか……。

 仮に入っていたとしても、店員が覚えているとは限らないし……」


「事故とか誘拐とかだったらどうしよう……」


「……大丈夫。美空の小さい頃だし、しっかりしているよ」


「そうだといいけど……」


「ここから最短ルートで美空の家へ向かえば、途中でみーちゃんに追いつけるかな?

 美空が前住んでいた住所教えて」


 俺はスマホで地図アプリを表示し、美空から聞いた住所を入力して、現在地からの経路を調べてみた。


「車だと二十六分だけど、徒歩だと二時間二十五分……。

 歩こうとするか?」


「分からない……。

 両親と会いたい一心で頑張るかもしれないし、諦めるかもしれないし……」


「この辺りに居ないんだし、やっぱ歩いて行ったんだよ。追いかけよう。

 義母さん達が車からだと見落としている場所にみーちゃんが居るかもしれないし」


「うん……」


 何か歯切れの悪い返事だ。


「どうした?」


「ねえ。みーちゃんはお金を持っていないから歩いていったっていうのが、みんなの推測だし、ひー君も同じ考えなんだよね?」


「うん。小学生が歩いて行ける距離なんてたかがしれているし、直ぐに追いつけると思う」


「みーちゃんは愛沢さんのスマートグラスで経路検索をしたんだよね?」


「うん。アプリの使用履歴があったって」


「私だったら、徒歩で二時間もかかる距離ならバスか電車を使うよ」


「みーちゃんはお金を持ってないからバスには乗らないよ」


「本当にみーちゃんって、お金を持ってないの?

 昨日の買い物をしたお釣りは?」


 昨日は美空だけ別行動だから、俺達とは違う着眼点からみーちゃんの居所を推測しているようだ。


 けど、みーちゃんがお金を所持していないのは確かだ。美空さん以外は全員が所持金ゼロだったはず。


「昨日はみんなに五千円ずつ渡したけど、お釣りは回収した。……あ」


 言いづらいけど、ちょっとした可能性に思い至った。


「気を悪くしたらごめんだけど、俺、昨日みんなと別れる前に、ホテル代として財布を愛沢さんに渡した。そこから抜いた可能性が……」


「そんなことしないと思うけど……。愛沢さんに確認してみる」


 美空はスマホを操作し自宅に電話した。ハンズフリーモードにしてくれたらしく、呼び出し音が俺にも聞こえる。


『はい。中橋です』


 出たのは愛沢さんだが、宅電にかけたから中橋と名乗ってくれたようだ。


「美空です。愛沢さんですか?」


『そうだよ。美空ちゃんも居るよ』


「ひー君から借りたお財布、あります?」


『え?

 あっ、ごめん。借りっぱなしだった。届ける?』


「違うの。お金が減っていないか確認して。

 みーちゃんが電車賃を持っていったかも」


『分かった。

 美空ちゃん、これ持ってて』


 どうやら美空ちゃんも直ぐ隣に居るようだ。


『減ってないよ。

 昨日、ホテル代を払ったら残りが千二百円で、今日のお昼ご飯どうしようって

考えていたから間違いない。

 1円も減ってない』


『……私は……。いえ、みーちゃんは財布からお金を出さないと思います。ホテル代がなくなったら私達が困るから……』


 みーちゃんと最も歳の近い美空ちゃんも、財布からお金を取った可能性を否定した。


「うん。私もそう思う」


 お金を取っていないと分かったことは嬉しいんだけど、手がかりの喪失は残念だ。俺は返事がもらえるか、若干の不安を抱えつつ美空ちゃんに話しかける。


「ねえ美空ちゃん。教えて。

 美空ちゃんだったら、二時間かけて家まで歩く?」


『……分かりません。私なら道が分かっていれば、行きます。

 ……けど。その二時間って大人の場合ですよね?』


「うん。ゴーグルマップの予想時間が徒歩で二時間二十五分だった」


『……歩く覚悟はあると思う。

 ……でも、あの年齢でも、目的地に辿りつくのは難しいって、分かっていると思う……』


「じゃあ。バス?」


 駅前スペースの先はロータリーになっていて、バス乗り場が複数ある。鉄道会社が運営しているバスの他に、市バスがあったはず。


 俺は視線で美空に合図し、通話したまま自転車を押してバス停へと向かう。


 今も赤い車体のバスがロータリーに入ってきている。当然、みーちゃんも昨晩か今朝、バスが走っているのを見たはずだ。


「俺、このバスで市民病院に行ったことがある。

 無料だった気がする。有料だったとしても、バスなら料金が後払いだから、お金がなくても乗ることは出来るはず。

 だから、みーちゃんが途中までバスを使った可能性は――」


『ないよ』


 愛沢さんが俺の推測をハッキリと否定する。

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