9-5.みーちゃんが行方不明になる

「いやいや、親子でなんか分かりあった雰囲気を出していないで、この状況、説明してほしいんだけど?!」


「そうだよ。二人とも、こっちが説明してほしいんだけど?!

 なんでお義母さん、私の水着を着ているの?!

 というか、胸、隠してよ?!

 ひー君、居るんだよ?!」


「義母さん、ひー君をめっちゃ可愛がっていると思ってたけど、こういうことなの?! 

 あっ。だから、美空ちゃん、来ちゃ駄目だって。見たら駄目!」


「……最低」


 くうっ。美空ちゃんの絶対零度ボイスが、上半身裸の背中に刺さるッ……!


 義母さんは胸を露出していることについては、特になんとも思っていないらしく、いつもと変わらぬ口調で愛沢さん達について聞いてくる。


「広至。何故、私は美空によく似た女に義母さんと呼ばれている。

 いや、似すぎだろう」


「えっと……」


 とりあえず俺は体を美空達とは反対側に向ける。

 だって、俺、上半身裸だから美空に見られたくない。


「じゃなくて!

 衝撃的な光景で我を忘れるところだったでしょ。そんなことより!」


 大声は誰?

 俺が半裸でスク水義母さんを押さえこんでいた状況を「そんなこと」で片付けられるほどの何かがあった?


「朝起きたらみーちゃんが居なくなってたの!」


「え?」


「私達が昔住んでいた家に帰ったのかも。

 スマートグラスで地図を検索した痕跡があった。

 昨日、私が使っているところを見て操作方法を覚えて……。

 私が寝ている間に使ったんだと思う……」


「帰ったって、どうやって?

 まさか、歩いて?」


「そうだと思う……」


「追いかけないと! 直ぐに着替えるから」


 立ち上がろうとする俺の肩を義母さんが押さえる。


「事情が分からん。手短に説明しろ」


「えっと」


 手短に?

 タイムスリップという概念が通じなかったのに、なんて説明すればいいんだ。

 俺が困っていると美空が「義母さん」と説明を買って出る。


「全員、私なの。未来と過去から四人の私が現れたの。信じて。

 他に十年前の私も居るんだけど、その子が、行方不明になったらしいの」


「未来と過去から?

 理屈は分からないが状況は分かった」


 分かったのかよ!


 随分と物わかりがいいのは、実際の美空達を目の当たりにしているから?


 それとも俺の説明が下手だった?


「信じてくれるの?」


「当たり前だ。見間違えるはずがない。お前は私の娘だ」


 首だけ半分振り返ってチラッと見てみれば、義母さんが美空ちゃんを抱きしめようと腕を開いたところだった。


 俺が美空ちゃんを絶対に美空だと確信できたのと同じだ。

 愛沢さんや美空さんは、恐ろしいほど似ている他人という可能性もある。

 でも、美空ちゃんは違う。

 義母さんだって俺と同じように、美空と三年間一緒に暮らしているんだ。


「……」


 美空ちゃんは抱かれる寸前、一瞬だけこわばったけど逃げはしなかった。


「……あの。中橋さん。……服、着てください」


 うーわ、さすが美空ちゃん、空気読めない!


 確かに家に来た直後の美空ちゃんは義母さんのことを中橋さんと呼んで距離を置いていたけど、今くらいは「義母さん、信じてくれてありがとう」って言っておこうよ。


「……小さい美空を探すのだろう。車を出そう」


 ということで、義母さんの協力が得られることになった。


 俺は自室に戻って服を着る。


 俺と義母さんが着替え終えて居間に行くと、美空達が捜索の段取りを決めていた。


 愛沢さんと美空ちゃんが家に待機。

 みーちゃんが帰ってくる可能性があるし、連絡役も必要だから家を留守にはできない。二人は、みーちゃんの居場所を検討する役目も担う。最も年齢の近い美空ちゃんと、スマートグラスの仕組みを知っている愛沢さんが適任だろう。


 義母さんと美空さんは車で美空の実家へ向かう。


 美空さんはナビ役だ。義母さんは美空の生家の正確な位置を知らない。美空さんなら近所まで行けば家の場所が分かるだろうし、運転中の義母さんに代わり電話連絡も可能だ。


 美空の生家は車で三十分はかかる距離なので、みーちゃんが到着している可能性は低いだろう。みーちゃんは移動中の可能性が高い。


 俺と美空は駅付近を捜索する。愛沢さん達が既に探したそうだが、見落としの可能性は捨てきれないし、この時代に生きる俺達だから気付けることもあるかもしれない。


 こうして俺達は三組に分かれて、みーちゃんの捜索を開始した。


 ついでに、美空の小学生時代の写真を撮影して伊吹に送り「親戚の子が居なくなった。探してくれ」と依頼しておいた。あいつなら背が高いから遠くまで探せるはずだ。


 大勢に声をかけたかったが、俺には休日を返上してまで手助けしてくれるような友達は伊吹しか居ない。

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