9-4.俺は義母さんに勝つ
「はぁはぁ……」
「どうした。中学生の頃と何も変わっていないぞ。
この程度で音をあげていたら、女五人と同居しても直ぐに様々な責任を投げだすことになるぞ」
「くっ。まだ、諦めてない!」
義母さんの息だって僅かに弾んでいる。
そうだ。
いくら技術に差があったとしても、抵抗する俺の体力は確実にあがっているんだから、それを押さえる義母さんだって、昔より大きく消耗するはずだ。
勝機はゼロじゃない。
とはいえ俺の体力もいずれ尽きる。
一つ一つの動作に集中して、確実に攻めよう。
俺は腰を落とし義母さんの出方を窺う。
義母さんも腰を落とし――。
バルンッ。
スクール水着から乳房が大きく零れ落ちる。首の所から右肩も出す着方をしていたから、激しい運動でズレたのだろう。
「む。待――」
「うおおおっ!」
義母さんが待ったを掛けるより早く俺は仕掛けた。
男なら誰だって異性の胸に興味を持つだろうが、あれは、血が繋がっていないとはいえ俺の母親だ。
ママのおっぱいなんか、見てたまるか!
俺は動揺している義母さんの左脚を抱え、全力で踏みこむ。
義母さんの脚を動かないようにして、肩で義母さんの腹を押す。
こうすれば、人は倒れる!
「うっ!」
よし。義母さんが倒れた。
だが、まだだ。
俺はすかさず右手を義母さんの股間に、上半身を義母さんの腹の上に載せて覆い被さり、左手を義母さんの左肩に回す。
俺は最も多感な頃に義母さんに股間を掴まれたんだから、逆に今、躊躇するつもりはない。
つうか恥ずかしがれ!
誓って言うが、俺に下心はないし、性的に興奮していない。
純粋に、義母さんに勝ちたい一心でレスリングをしている。
義母さんに勝てば、美空五人と同居するという無茶な願いだって聞き入れてくれるはずだ。
「くっ!」
義母さんが俺をはねのけようとするが、俺は全身の力で阻止。
レフェリーは居ない。けど、このまま押さえこめば俺の勝ちだ。
だが。
キシッ。
それは、中庭に面した廊下を人が歩く、とても小さい音。
「義母さん、さっきからなんのお……と……」
美空が現れ、俺は硬直した。
現在、上半身裸の俺は、美空のスクール水着を着た義母さんの上に覆い被さっている。
義母さんは乳房を露出しており、俺の左腕は剥きだしの乳に当たっているし、右手は義母さんの股間へと伸びている。
中庭にマットを敷いてこんなことをしている母子など、世界に俺達くらいだろう。
さらに状況は悪化する。
ガラララッ。
玄関の引き戸が開いた音だ。呼び鈴を押していないから、美空さん達だ。
どういうことだ?
義母さんが京都へ帰ったら俺から連絡する手筈なのに、なんで朝から戻ってきた?
庭の駐車スペースに車があるから、義母さんが居るのは外からでも一目瞭然のはずなのに。
「大変、大変! って、美空、そんな所で何をして……」
廊下をトタトタと駆ける音が近づいてくる。
これは、破滅を告げる鐘の音色だ……。
「何を見て固まってるの……?
ええッ?! ひー君、義母さん、何やってるの?!
半裸で抱き合うって、こんなの、セックスじゃん!」
さらにもう一つの足音が近づいてくる。
「お姉、大声でセッ……とか言わないでよ。
……あ。これは酷い……。ストップ!
美空ちゃんは来ちゃ駄目。
この光景は見たら男性不信に陥る」
「……何があったんですか?」
「いいから来ちゃ駄目!
駄目ったら駄目駄目。
こんな悲惨な光景を見たら、森を失った野生動物のように心を閉ざしちゃうよ?!」
美空さんと美空ちゃんも帰ってきたようだ。
頼む、美空さん。美空ちゃんを完璧にブロックしてくれ……!
俺が祈っていると、組み伏せられたままの義母さんから、至って冷静な声。
「不測の事態に気を取られてしまったとはいえ、私の両肩は確かに一秒、床についた。広至、お前の勝ちだ。
……強くなったな」
「義母さん……」
俺の勝ちらしい。
義母さんが俺に怪我をさせないように手加減していたのは分かっているけど、初めて勝った。
義母さんが俺を認めてくれた。
やばい。目がうるっとしてきた。涙がこぼれそう。
俺は義母さんから離れ、マットに正座する。
体は汗ばんでいるのに、まるで鷹になって高峰の遥か上空を飛行したかのような爽快感がある。
「義母さん、ありがとう」
「ああ。本当に、強く、大きくなった」
起き上がった義母さんが頭を撫でてくるのが気恥ずかしい。
それに義母さんは胸が丸出しだから、視線のやり場に困る。
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