8-2.フードコートで仲良く昼食を取る

 俺達は合流してからフードコートで昼食を取ることにした。


 テーブルには愛沢さん、みーちゃん、俺の順に座る。

 俺の正面には美空さん。美空ちゃんは対角線上の離れた位置だ。


 適当に座っただけだから深い意味はないんだろうけど、美空ちゃんから物理的にも精神的にも距離を感じる……。

 ロールアイスの一件で歩み寄ってくれたのかと思っていたけど、特にそんなことはなかったのだろうか。


 そのうち心を開いてくれるといいな。


 それぞれ好きな物を買うことにして、いったん解散。

 示し合わせたかのように、みんな別のお店に向かった。


 愛沢さんは、マルゲリータとハニーピザ(蜂蜜のかかった甘いやつ)。両方とも薄くて小さめ。

 美空さんは、ファストフード店のポテトとナゲット。

 美空ちゃんは、ローストビーフ丼。

 みーちゃんは、ラーメンチェーン店のお子様セット(ミニラーメンと、ミニチャーハンと餃子)。


 俺はみーちゃんに付き添って同じ店に並び、ラーメンセットB(醤油ラーメンと、中華丼と餃子)と、唐揚げ。


 美空ちゃんだけは自分が頼んだ物を自分ひとりで食べたが、他はシェアした。


 愛沢さんと美空さんは最初から全員でシェアするつもりのチョイスなんだろうな。

 俺は完全にひとりで全部食べるつもりで自分の分を買ってきたが、餃子と唐揚げはテーブルの中央に置き「好きに食べてください」ということにしておいた。


 次からは俺も、シェアできる物を注文しようと思いながらラーメンをすすっていると、愛沢さんが――。


「ひー君。ラーメン一口ちょうだい」


 え?!

 ラーメンを一口?!


 ラーメンなんてシェアするものじゃないぞ?!


 愛沢さんは俺の方に手を伸ばして「ん?」と首を傾げている。


 俺が戸惑っていると美空さんが「お姉」と口を挟み、立ち上がる。


「ひー君、高校生だよ。関節キスが~とか考えているよ。

 取り分け用の器と箸、持ってくるから」


 美空さんはラーメン屋の方へ歩いて行った。


「あ。そっか。ひー君は、そういうの意識する年頃だったね。

 私は気にしないけどね。唐揚げちょうだい」


 愛沢さんが俺を見つめてくる。

 愛沢さんはピザを買ってきたから、箸を持っていない。

 まるで、間接キスは気にしないから、ひー君の箸で食べさせて、とでも言いたげだ。


 すっ……。


 俺が何かをするよりも早く、美空ちゃんが箸で唐揚げを取り、愛沢さんの口に近づける。愛沢さんはそれを食べた。

 みーちゃんが真似して「私も」と口を開き、唐揚げを貰った。


 この流れならイケる、ということで俺も口を開く。


「あーん」


 ……。

 ……反応なし。ガン無視された。


 代わりに愛沢さんがポテトを一本、口の中に入れてくれた。



 その後、昼食を終えた俺達は緩い集団行動でモール内のイベントを見学したりゲームコーナーで遊んだりした。


 しばらくしたらおやつ時になったので、アオン内のカフェに入り休憩。

 愛沢さんがさりげなくちびっ子の様子を観察していて、そろそろ一休みと判断したのだ。


 テーブルに座る配置は、お昼と同じだ。また美空ちゃんが俺から対角線上の最も遠い位置に座った。


 さて、夕食にはまだ早いので、とりあえずタッチパネルで人数分のドリンクバーを頼んだ。年少組のお腹が冷えそうだけど大丈夫かな。けど、そんな心配を口にしようものなら絶対零度は確実だ。初恋相手から何度も冷たくされたら、俺の精神が凍死しちゃう。


 とりあえず各自思い思いのドリンクをゲットしてきたので、これからについて作戦会議だ。


「当初の予定だと、私達は家に帰らず、土日はホテルに泊まる予定だったけど、どうしよう……」


 愛沢さんのお金が使えないことが発覚したので、ホテルに泊まることはできなくなった。計画を練り為さないといけない。


「私は家に帰っても大丈夫じゃない?

 美空と一緒に居るところを義母さんにさえ見られなければいいんだし」


「……」


「プリン食べたい」


 悩み事とは無縁のみーちゃんがデザートを要求したので、一旦、作戦会議は中断。


「皆さんも、何か要ります?」


「パース」


「じゃ、私、チーズケーキ」


「……」


 愛沢さんはなしで、美空さんがケーキ。美空ちゃんは無言だけど、お腹いっぱいなのか遠慮しているのか分からない。自分で注文できるように、タッチパネルを美空ちゃんの近くに置いておいた。


「そうだ。俺が美空と一緒に義母さんを食事に誘い出すのってどうかな。

 その隙にみんなは美空の部屋に入って、大人しくしているのは?」


「義母さんが帰ってきた後は、物音を立てずにジッとしているの?

 私達はともかく……」


 愛沢さんが傍らのみーちゃんの頭を撫でる。


「じゃあ、みーちゃんは俺の部屋に居てもらいます?

 義母さん達の寝室からは離れているし、漫画を読んでいれば大人しいだろうし」


「それが無難か。

 一人だけじゃ不安だし、今日は私がみーちゃんと一緒にひー君の部屋でお泊まり。

 美空さんと美空ちゃんは、美空の部屋で寝るとして……。

 ベッドが足りない」


「私は友達の家に泊まろうか?

 心当たりに連絡するよ?」


「髪の色が違うからバレますよ」


「脱色したって言えばいいでしょ」


「月曜日に学校で会いますよ?」


「あ……。じゃあ美空が友達の家に行ったら?」


「それだと、美空さんが義母さんと会った時に髪の色が違うからバレますね」


「ぐぬぬ……」


「なんにせよ、一緒に居るところが見られるのは拙いから、二人は同じ部屋で過ごして、お互いに行動タイミングの相談をしないと」


 ということは、美空の部屋で美空と美空さんと美空ちゃんが寝る。


 狭いけど三人、なんとかなるか?


 そして、俺の部屋で愛沢さんとみーちゃんが寝る。


 ……俺の行く場所がないな?

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