7-5.愛沢さんは下着を買う

 愛沢さんが買い忘れたのは、カラフルで毎日身につける物だよな。


「ハンカチ?」


「セットで買う物だよ」


 俺は愛沢さんに従い、店の奥へと向かう。

 男性用の服売り場を通り抜け、子供服売り場をすぎ、女性服売り場の通路を進む。


「こっちなら靴下だ」


「美空のだと、ちょっとサイズが合わなくてヤバ谷円の無理茶漬けなの」


「靴下ですよね?」


「ないと困るの。昨日の朝みたいな時に、ね……」


「間違いない。靴下だ」


 俺はもう天井を見上げていて、視界の片隅に愛沢さんを捉えているだけだ。

 だって、俺が居るのは、カラフルで様々な種類がありつつも白い物が多く、あ、いやじっくり見ていないから違うかもしれないけど、使用している布が少ない割に高そうな商品が陳列してある区画だ。


 いやいや、見ていないからこの辺りに何が売っているのか、分からない!


 というか、なんでさっきみーちゃんや美空ちゃんのと一緒に買わなかったの?!


「昨日の朝、つけていなかったんだからね」


「ああ、やっぱり。間違いなく靴下だ」


「触ったから分かるでしょ。

 私は美空達とサイズが違うの。

 ほら、選んでくれるんでしょ?

 可愛いの? セクシーなの? 脱がせやすいの?

 どんなの選んでくれるのかな」


「勘弁してください」


 愛沢さんの声は楽しそうだ。

 けど、昨日のことを根に持って怒っているのか、単に俺をからかっているだけなのか分からない。だから俺は、みーちゃんの手を引き逃げだす。


「俺達は遊具コーナーに居るから、終わったら来てください。

 ほら、みーちゃん、行こ」


「うん」


 俺達は店内最奥の遊具コーナーへと移動する。子供用のゲーム機や、お金を入れたら動くバスがあった。大人が服選びをしている最中に小さい子を遊ばせておくための空間だ。


「みーちゃん、これ乗る?」


「乗るー!

 本当はこういうので喜ぶ年齢はもうすぎたけど、わたし、お兄ちゃんのイメージする小っちゃい子を演じるね」


 ……なんか腹黒いこと言った気がするけど、聞かなかったことにしよう。みーちゃんは五人の中で一番純真無垢なはずだ。


「愛沢さんのお買い物が終わるまでここで遊ぼうね」


「うん。わたし、ここに居るからお兄ちゃん、自分の服を見てきていいよ。さっき、見れなかったでしょ?」


「いいの?」


 確かに俺は美空達の意見を求められたり荷物を持たされたりしていたから、自分の服は見ていない。俺は服装には拘らないけど、折角しまクロに来たんだし、セール中のTシャツくらいはチェックしたい。


「ん」


 みーちゃんが手を出してきた。お金をくれということだろう。ちゃっかりしてる。


 財布には百円玉が三つあったので全て渡して、俺は自分の服を見に行くことにする。


 乗り物の他にもゲーム機が並んでいるし、みーちゃんは暫く独りで遊んでいられるだろう。


「じゃあ、俺はあっちの男性服売り場に居るから、何かあったら来てね」


「うん」


 俺はみーちゃんと別れて男性服売り場に移動する。途中、何度か振り返り、ゲームコーナーが見えることを確認しておいた。目を放している隙に居なくなられても困るし。


 みーちゃんは乗り物よりもゲーム機に興味があるのか、ゲームコーナーをうろうろしていた。


 それから暫くすると、愛沢さんが俺の方に来たので合流。さらに、みーちゃんと合流して俺達はレジに向かった。その際、俺は愛沢さんが持つ籠からは視線を逸らす。


 なんか黒いのがあった気がするけど、気のせいだ。美空はそんなエッチなの穿かない……。


 しまクロを出ると、愛沢さんは紙袋を「荷物持ちよろしくねー」と渡してきた。中学生の美空ちゃんは下着の入った袋を俺には持たせなかったのに、大人の愛沢さんは平気らしい。


 それから俺とみーちゃんは愛沢さんと別れた。いや、だったら、下着を買う前から別行動すればいいのに……。愛沢さんはわざわざ俺をからかったようだ。

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