7-4.アオンで買い物をする

 電車は空いており、俺達はボックス席に座れた。

 俺と美空さんが並んで座り、対面に愛沢さんと美空ちゃん。

 みーちゃんは美空ちゃんの膝の上で抱っこされている。


 俺達は全員の所持金を確認する。


 出掛けた当初は、愛沢さんの電子マネーですべて支払うつもりだった。

 だが、ついさっき改札を通ったときに、愛沢さんのスマホ内蔵眼鏡の電子マネー機能が使えないことが発覚したため、俺達の所持金は不明になったのだ。


「俺、5万持ってきました」


 先ずは俺が使わずに取っておいたお年玉50,000円。うちは、父方の親戚が多いからお年玉がたくさん貰える。もしかしたら親戚は、俺が養子だから境遇に同情して多めにくれるのかもしれない。


 これが本日の主力オブ主力だ。全ての美空は俺に感謝してほしい。


「ひー君、ごめんね。すぐに返すから。ほんと、ごめん。

 社会人なのに所持金0でごめん……」


 ということで、最も財力に秀でていると思われていた愛沢さんは現金を持っていなかった。


「大学生も不甲斐なくて、ごめん……。7,200円」


 美空さんも電子マネーが使用できない。しかし、財布に現金があった。


「待って。それ、発行日、確認した方が良くないか?

 未来のお金だったら、大変でしょ?」


「あ、ひー君の言うとおり」


「ちょい待ち。お札には番号が書いてあるでしょ?

 この時代に同じお札が2枚になっちゃうから、美空さんのお金は使わない方が良いわ。使ったら、精巧な偽物として流通しちゃう」


「なるほど。確かに。

 じゃあ、使えるのは俺の5万円だけか」


 美空ちゃんとみーちゃんはタイムスリップ時に財布を所持していなかったので、0円。仮に二人が財布を持っていたとしても金額は少ないだろうし、使うのは気がひける。


「美空が近日中に返すから……」


 ――と美空さんが申し訳なさそうに言うと、愛沢さんもなにか心当たりがあるのか、こっちは笑いながら――。


「あ。そろそろか。

 うん。美空がもうすぐ返すから。今日はお金、借りるね?

 返す当てがあるから、遠慮せずに必要なものを買ってね。特に美空ちゃん」


 二人してなんだろう。

 近いうちに宝くじでも当てるのか?


 何はともあれ、50,000円。これが、本日の軍資金だ。


 駅ビルと直結しているショッピングモール・アオンが本日の目的地。知り合いと遭遇する可能性を低くするため電車で遠出したが、ぶっちゃけアオンは田舎民が集う遊び場でもあるから、注意は怠れない。


 購入必需品は年少組二人の服と靴。特にみーちゃんは服も靴もブカブカだ。俺は予てより、衣食住という言葉の中で衣は格下だと思っていたが、みーちゃんを見ていて考えを改めた。


 美空ちゃんは「出掛けるつもりはないから服なんてどうでもいい」と言っていたが、そういうわけにもいかない。初恋相手が家では中学ジャージだけで過ごすなんて、嫌すぎる。


 愛沢さんと美空さんは当面の間、美空の服を使うことになる。


 ただ、美空さんはなんの抵抗もないようだが、愛沢さんは「学生時代の服を着るのは心理的に辛い」らしい。現時点で、一番大人っぽい服を借りてきているが「無理してる感が出まくりで恥ずかしい……」らしい。でも、我慢してもらうしかない。


 いや、愛沢さんは普通に学生としても通用しそうなくらい若作りに見えるが、それは、女性に言っていいのか悪いのか俺には判断できないから黙っておいた。


 何はともあれ、アオンに入って左手直ぐに都合よく服屋のしまクロが店を構えていた。けれど、入り口正面は映画館へと通路が続き『歴代プチキュア総集結!』な映画のポスターを見たみーちゃんがそっちばかり行こうとするから、入店前に一悶着。


 とはいえ、言葉にすると語弊があるかもしれないが、しまクロで全員の服の他に女児パンツも手に入ったし、靴も買えたので、本日の目的は半分くらい達成できた。


 俺が選んだわけではなく会計しただけなのに、美空ちゃんから「最低」の絶対零度をもらったのは理不尽。


 美空ちゃんが手を差しだしてくるから「荷物は俺が持つよ」と応えたら再びの「最低」。


 どうやら、下着の入った袋を俺が持つことが、美空ちゃん的に許せなかったらしい。いや、確かにみーちゃんのだけじゃなく、美空ちゃんの下着も入っているけど……。


 とりあえず、みーちゃんに靴を履き替えてもらい、家から持ってきた靴はビニール袋に入れておいた。そのビニール袋を俺が持つのも駄目らしく、美空ちゃんが持つことになった。


 集合場所を決めた後、各自に五千円ずつ渡して別れる。俺と一緒に居たら買いづらい物もあるだろうし。


 みーちゃんは俺と一緒に行動する。


 美空さんと美空ちゃんが去った後、何故か愛沢さんが残った。


「あれ。愛沢さんは行かないんですか?」


「ちょっと、しまクロで買い物があるのよ」


「え?」


 俺の両手には大きなビニール袋が二つある。愛沢さん、美空さん、美空の三人で着回せるような服も何着か買ったはずだ。


「買い忘れですか? 似合いそうなの探しますよ」


 普段の俺なら女性の服を選ぶなんて自分から言わない。


 けど、ついさっき、美空ちゃんを除く女性陣に散々、似合うかどうか聞かれたからな。

 俺に服選びのセンスはないけど、美空達はきっと自分自身だけだと意見が偏るから、他人の意見が欲しいのだろう。


「ひー君が選んでくれるの?

 じゃあ、お言葉に甘えよっかな」


 愛沢さんがしまクロ店内に戻っていくから、俺はみーちゃんの手を引いて、ついていく。


「あ、分かった。スリッパだ。そういえば、さっき買ってない」


「違うよ。毎日身につける物」


「靴下?」


「ピンクや黒や色んな色やデザインがあって。ひー君は白いのが好きそう」


 ……答えが分かってしまった。

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