7-3.美空ちゃんに冷たい目で睨まれて俺は心が傷つく
俺がスマホを買ってもらったのは高校進学時だから、中学時代の美空の写真は持っていない。義母さんは写真を撮っているが、親のスマホなんて中を見られるものではない。
ましてや、義妹の中学時代の写真をくれだなんて、義母に言えるはずもない。
高校生の写真は何枚か有る。俺達の様子を義父さんや義母さんに報せるという建前で、不定期に写真を撮っているからだ。
雪が積もったレベルの出来事はもちろん、オムレツが綺麗に焼けただけでも「記念に送ろう!」と言って写真を撮ったほどだ。
けど、中学時代のロングヘアーの写真は0枚!
俺は自分のスマホに美空ちゃんの写真が欲しい……!
俺が美空ちゃんに見惚れていると、彼女は一歩後じさった。
「美空ちゃん?」
「……変態」
「なんで……」
美空ちゃんはスカートを押さえ、俺に軽蔑の視線を向けてくる。
「……最低」
出会って二日目にしてもう何度聞いたか分からない絶対零度。早朝の日差しを浴びていても寒気を覚える程だ……。
なんで怒らせてしまったんだ?
あっ、もしかして、俺が「履く物」って言っていたから「履く」と「穿く」で勘違いしている?
俺、靴の話をしていたんだけど、みーちゃんと美空ちゃんは、パンツの話だと誤解している?
「ねえ、もしかして誤解させた?
履く物を買うっていうのは靴のことだよ。パンツのことじゃないからね?」
「……」
あ、美空ちゃんがちょっとだけ気まずそうな顔をしている。どうやら誤解していたことに気付いたようだ。
「嘘つき……」
「嘘じゃないです」
「……信じられない」
……ぐ。間違いなく三年前の美空だ。
出会った直後の美空は陰気で生意気だから、俺は大嫌いだった。
義父さんや義母さんが気を遣っているのに、その優しさに気付かずに当たり散らしてトゲトゲツンツンしていて……。
そんな印象が変わり始めたのは、中学三年の時。
美空は三者面談のことを義父さんに伝えていなかった。三年生は進路相談をするから、俺だけ面談があって美空にはないなんてことは、有り得ない。
そこで夕食時に義父さんが確認した。そうしたら美空が「本当の親じゃないんだから、来ないで」と拒絶を顕わにして、席を立った。
俺は文句を言うために、美空の部屋まで追いかけ、そこで見たんだ。
美空が両親の写真を見て泣いている姿を。
亡くした両親を忘れたくないから義父さんに反発したということが、俺にも分かった。
俺も同じだったから……。
新しい家での生活に慣れ始めて、義父さんや義母さんに心を開きかけていたからこそ、却って本当の両親が自分の中で過去になってしまうのが怖くなったんだ。
恐怖していたから、周囲に壁を造るしかなかったんだ。
昔の俺と同じだと気付いてから、俺は美空を少しずつ好きになっていったんだ。
「……なんで笑っているんですか」
「美空ちゃんが可愛いから」
あっ。
つい本音が漏れてしまった。相手が年下だから油断してしまった。
でも、飾らない言葉は少しくらい美空ちゃんの心の扉を開いて……はくれない。
「……気持ち悪い。
高校生のくせに、中学生にそういうことを言うなんて……」
言葉通り心底気持ち悪がっている風に、美空ちゃんは身を護るように細い両腕を体の前にして一歩下がった。
ぐっ……。初恋相手からの軽蔑の眼差し……。
駄目だ、俺、傷つくな。受け入れろ。
「みーちゃん、前の二人と距離が開いちゃったから、少し急ごうか」
俺は精神的にも物理的にも逃げた!
俺はみーちゃんの手を取ると、早歩きで美空ちゃんから逃げたのだ。
過去の美空だと分かっていても、キツい。初恋相手に軽蔑されるの、めっちゃ心が痛い!
困った時の年長組だ。
俺は事情を説明して、二人に美空ちゃんへのフォローを依頼。
愛沢さんは「放っておけば」とにべもないが、美空さんは「任せて」と応じてくれた。
その後、俺達は最寄り駅に到着し、ささやかなことで、彼女達がこの時代の人間ではないと改めて認識した。
ガチャンッ!
ピンポーン♪
『もう一度。タッチ。して。ください』
「えっ。えっ。なんで」
愛沢さんが自動改札を素通りしようとしたら、扉が閉まってサイレンが鳴った。
後で聞くところによると、スマホ機能を内蔵している眼鏡から電子マネーが引き落とされる……つもりだったらしい。
「ぷっ。お姉、何やってるの」
直後、美空さんが隣の改札で、スマホをカードリーダーに当ててから通過しようとし――。
ガチャンッ!
ピンポーン♪
『もう一度。タッチ。して。ください』
「えっ。なんで私まで。チャージしたばかりだよ」
未来のスマホに電子マネーを登録しても、現代の読みとり機では対応していないらしい。
年長組が自動改札に捕まる一方、年少組は難なく通過。
俺に券売機の使い方を聞いて、自分で切符を買ったみーちゃんが一番素直で可愛い。
「あの人達、大人なのに電車に乗れないの?
わたし、大人になったら馬鹿になるの?」
みーちゃんが未来の自分に呆れて目を丸くしている。
後になって分かるんだけど、確かにみーちゃんは賢かった。
この時、既にみーちゃんはある計画を立てて行動していたんだけど、俺はそんなこと微塵も気付いていなかった。
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