7-2.みーちゃんはサイズの合わない靴を履いているから歩きにくい

 美空さんは新しい玩具を見つけた子供みたいな笑みを俺に向けた後、愛沢さんと何やら小声で話し始めた。


 とりあえず年長者二人を無視して、俺は後ろの年少者二人に歩調を合わせる。


「みーちゃん、歩きにくくない?」


「うん。平気」


 短い歩幅を考慮しても、みーちゃんの歩みは遅い。靴のサイズが合っていないのだから仕方がない。靴下を二重に履いてもらい、さらに丸めた靴下を靴のつま先に詰め込んで急場しのぎしてあるが、やはり歩きにくいだろう。


「愛沢さん、美空さん、歩くペースを落としてください」


 先を行く年長者組は近所の土地勘があるし足も速いからさっさと進んでいこうとしていたけど、俺の言葉でようやく年少組が遅れがちだったと気付いたようだ。


 自分のことなのに無頓着だな……。いや、逆に自分のことだからあまり心配していないのか?


 みーちゃんは美空のシャツを着ていてサイズがまるで合っていないが、愛沢さんと美空さんが上手く工夫してくれた。ガバガバな襟元や腰をピンで留めてリボンをつけている。


 可愛い感じに仕上がっていると思うが、工面した二人は「ネグレクトされて服を買ってもらえない子だと誤解されたらどうしよう」と不安になっていた。


「きゃっ」


「っと。大丈夫?」


「うん」


 みーちゃんが何もない所で躓いた。

 咄嗟に支えてあげたから大事にはならないが、やはり歩きにくいようだ。


 みーちゃんは他の美空達と体格が違いすぎるから、靴や服が共有できない。今日はみーちゃんが身につける物を多めに買ってあげないと。


 靴が最優先だ。


「危ないから手を繋ごっか」


「うん」


「履く物を最初に買わないとね。

 今のままだとサイズが合わなくて脱げちゃうかもしれないし」


「うん。プチキュアのがいい」


「プチキュアかあ」


 確かに小さい子はアニメ絵が描いてあるのを履いているよな。


 でも、みーちゃんが好きなプチキュアの靴ってあるのかな。プチキュアって仮面ライガーみたいに毎年新作がやっているんだよな?


「お店に着いたら、プチキュアの探してあげるよ」


「うん。約束だよ」


 みーちゃんは目をルンルンと輝かせている。五人の中で一番素直だし、屈託のない笑みは見ているだけで癒やされる。


 次に俺は最後尾の美空ちゃんに声を掛ける。


「美空ちゃんはどういうのがいいの?」


「……」


 返事がない。


 後ろについてきているはずなんだけどな。


「運動しやすいやつより、可愛らしいやつ?」


「……」


 やはり返事をしてくれない。


 靴に興味はないのだろうか。でも、愛沢さんや美空さんの発言や、美空が沢山の靴を持っていることを考慮すれば、美空ちゃんも靴に興味があるはずだ。


 愛沢さんは女の子の足下に興味を持てと言っていた。


「美空ちゃんがどんなの選ぶのか、楽しみだなあ。

 履いているところ見てみたいなあ」


「……」


 関心を引く話題のつもりなんだけど、美空ちゃんは全く食いついてこない。


 それどころか背後の足音が消える。


 立ち止まった?


 振り向けばそこに、尊すぎて直視できない程の美少女が居た。


 俺の初恋相手は中学校の制服を着ている。


 現代にも残っていて、サイズが合い、本人も着慣れている服という条件を満たしていたから、美空の中学時代の制服が美空ちゃんに譲られたのだ。


 中学ジャージのまま出掛けようとした美空ちゃんを着替えさせた愛沢さんと美空さん、グッジョブすぎる……!


 気を緩めようものなら、俺はその姿をスマホの容量が許す限り写真や動画に残すだろう。


 しかしそんなことをすれば嫌われかねないから、できない。


 だから目に焼き付けたいんだけど、じっくり見たら嫌われそう。


 もどかしいなあ。

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