第7話 五人で買い物に行く

7-1.義妹四人と一緒に買い物をするため、お出かけする

 土曜日。

 予定通りなら十時頃に義母さんが帰ってくる。義母さんは、平日は出張中の義父に付き添って京都に出掛けているが、土日には俺達の様子を見るために戻ってくるのだ。


 いつも通りなら十時頃に来るだろう。


 さすがに五人の美空と会わせたらどうなるのか分からないので、義母さんには隠すことにした。いずれ打ち明けるにしても、とりあえず問題は先延ばし。


 義母さんが家に着くよりも先に、愛沢さん、美空さん、美空ちゃん、みーちゃんと俺は隣町まで出掛ける段取りだ。


 美空ちゃんは外出を渋っていたが、愛沢さんが下着を買う必要があると説得した。五人はタイムスリップ時に着ていた服だけでは着替えが足りないので、美空の服や下着を共用している。しかし、それも不足するのは目に見えている。


 しかも、昨日雨が降ったせいで洗濯ができず、タイムスリップ時に五人が着ていた下着は丸ごと使えない。さらに運悪く、最も代用が利かないみーちゃんの服が汚れてしまったのだ。みーちゃんだけは体のサイズが違いすぎるので、どうにもならない。


 雨天の度にこれではいずれ着る物がなくなるので、下着や衣服の購入は最優先課題だ。


 美空だけは義母さんの対応をするために留守番。


 俺は出掛ける直前の玄関で靴を履き、そこで重大な見落としに気付く。


「しまった……」


 美空さん達が履く靴が、足りない。


 五人の美空はタイムスリップの直前に屋内に居たらしく、靴は履いていなかった。


 玄関には美空が通学用に使っている靴しかない。

 普段履きの靴があるにしても、愛沢さんと美空さんが履いたらそれで終了だ。


 全員での外出は不可能という気まずい事実を言いだせないでいると、愛沢さんがやってきて迷うことなく靴箱を開ける。そして、靴を取りだす。


 次に美空さんもやってきて、同じように靴箱から靴を出す。

 美空さんはそのまま自分用だけでなく、美空ちゃんやみーちゃん用にも靴を出す。


 そして、あっと言う間に四人分の靴が玄関に並ぶ。


 なんで靴が四足以上あるんだろう。靴箱を覗いたら、まだ幾つも潜んでいる。


 俺の靴なんて普段と通学で兼用している運動靴とサンダルの二足だけなのに……。


 家を出て、川沿いの道中で俺はそのことを愛沢さん達に尋ねる。


「あんなに大量の靴があったんですね」


「えっ? ひー君、ずっと一緒に暮らしていて気付いてなかったの?

 ひー君がクリスマスにゲームやプラモを買ってもらってた時、

 私は靴や服を買ってもらってたんだよ?」


 まじかよ。

 俺、服は義母さんが買ってきたやつで満足しているからなあ。

 クリスマスプレゼントで日用品を買うという発想が、先ず出てこない。


「これからは胸だけじゃなくて、女の子の足下にも興味持とうね?」


 愛沢さんの忠告に従って、早速愛沢さんの靴を見る。胸のことはスルーだ。


「ていっ」


 何故か後頭部にチョップをくらった。


「隣で歩いている子の足下を見てどうするの? 前見て歩こ?」


「理不尽だ。自分で足下に興味持てって言ったくせに……」


 俺がふてくされていると美空さんが声を小さくして耳打ちしてくる。


「みーちゃんや美空ちゃんが靴を買ったら、ちゃんと可愛いって褒めるんだよ」


「わ、分かりました」


 いきなり美空と瓜二つの顔が近づいてきたから、思わず声がうわずってしまった。


 しかも二日前にコンビニ横で抱き合ったことを思いだしてしまい、胸がバクバク鳴る。


「ひー君、顔が赤いよ?

 まるでサウナの淀んだ蒸気を浴びたみたい」


「朝日が眩しいから……」


「春の陽を浴びて煌めく彼女の笑顔が眩しくて、俺はつい呆けたように見とれてしまった――というわけ?」


「そ、そういうことでいいので……」


 俺は美空さんから距離を取るため、歩く速度を落とす。

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