6-5.俺は美空に、例の謎アプリを見せてみる
次の交差点で赤信号に捕まった時、不意に美空が呟く。
「ねえ、ひー君。七歳、十四歳、二十歳、二十四歳……。何歳の私が好き?」
「んん?」
何気ない口調で、とんでもないことを聞いてきたぞ。
選択肢の中に十七歳が含まれていない。どういうことだ?
「深い意味のない質問だから、軽い気持ちで答えて」
「そうは言われても……」
この問いの意味はなんだ?
女子が好きな心理テストというやつか?
心理テスト!
それは――。
「あ。ひー君、怖い顔になりかけてるからやめて。通行人が怖がっちゃう。
それ以上考え事をするなら傘で顔を隠して」
「俺の顔は有害指定か……」
「面白い反応、もらえなかったな……」
美空はスマホを取りだし操作する。いや、直ぐに操作を終えたようだ。
二人きりだし、例の話をするか。
「なあ、未来と過去の美空が元の時代に戻る方法だけど……。もし、もしもだよ」
うわ。キスのことを口にしようとすると、滅茶苦茶恥ずかしい。
「どうしたの? 何か知っているの?」
「えっと……。LIMEで送る」
俺はスマホのホーム画面を開き――LIMEでメッセージを送らなくても、謎のアプリの画面を見せれば良いのではと気付いたので――美空に見せる。
「なあ、このアプリ見てくれ」
「真っ黒だよ」
「え?」
画面には五人の名前と灰色のキスマーク(多分、キスしたらピンクになる)が表示されている。スマホには普通の保護シートしか貼ってないけど、美空の位置からは見にくいのか?
雨を避けつつ腕を伸ばしてスマホを美空の傘の下に移動させてみた。
「ほら」
「ん? 電源が入っていないんじゃないの?」
「え?」
美空には見えていない?
改めて確認してみると、俺の目には謎のアプリが見えている。
タイムスリップが起こるくらいの異常事態なんだから、俺にしか見えないアプリがあっても不思議はないのか?
どうしよう。ここで俺が、キスしたら元の時代に戻れると言いだしたら、絶対に誤解を与えてしまう。拙いぞ。
――しかし、偶然とはいえ些細な奇跡が起きる。
「白雪姫は王子様のキスで目が覚めるし、アニメや漫画でもヒロインが主人公にキスしたら奇跡が起こるよね」
「そうだよな! それが定番だよな!」
「……なんか食いつき良すぎ」
「あ、いや……」
「ふーん。ひー君は私達とキスしたいんだ?」
「そ、それは、その……」
し、しまった。失言だ。誤解を解かなければ俺は義妹とキスしたがっている変態兄貴になって――。ん?
「待て。俺は『ヒロインと主人公がキスしたら』という話に同意しただけだ。一言も俺が主人公とは言っていない」
ボッ。
コンロに火をつけたような音が聞こえそうな勢いで美空の顔が赤くなり、傘でさっと顔を隠してしまった。
「ひー君の聞き間違いだよ?!」
「そうか?」
「そうだよ。ほら、遅刻しちゃうよ!」
美空は会話終了とばかりに早歩きになったので、俺も歩を強める。
ふーむ。元の時代に戻る必要がない美空は、俺とキスする必要はないんだけど、確かに『ひー君は私達とキスしたいんだ?』と言ったぞ。『私達』だぞ。
美空自身も含まれている。これって、美空が俺とキスしたいと思っているから、出てきた発想だよな?
そうだ。きっとそうに違いない。
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