第5話 美空さんとコンビニへ行く
5-1.美空さんと一緒にコンビニへ向かう
古い街灯で足下の覚束ない夜道を、美空さんが危なげなく歩く。道路の端にある溝は蓋がついていないが落ちる心配はなさそうだ。
「三年じゃ変わらないかあ。
町の景色も風の匂いも、月の輝きも何も変わらない……」
「美空はここ歩くの久しぶりなの?」
「んー?
ひー君さ、私が月の輝きが変わらないって言っているんだから、
そこは『君の美しさも変わらないよ』って言おうよ。
あと、未来のこと探ろうとしても駄目だから」
あっさりバレた。
三年後に美空が何処で暮らしているのか聞き出したかったのだ。
あわよくば俺との関係も……。
でも、ヒントは得たぞ。
三年後と比較できるのなら、美空さんは三年後のこの道を知っていることになる。
「私のことは美空さんって呼ぶことに決まったでしょ。
ほら、年上なんだし敬って」
「ええ……。あんまり年上感、しないんだけど……」
美空さんは外見が美空と殆ど変わらないから、敬えと言われても困る。
街灯があるとはいえ田舎の住宅街なので、周囲は暗い。
だから、美空さんの髪の色もハッキリしないから、ますます美空との違いが分からない。
声も同じだから、どうしても美空と会話している気になる。
「あー、でもあれか。
私がお姉ちゃんになったら、貰い物のケーキが余った時に我慢しなきゃだし、義妹のままでいっか」
「別に、俺が兄だから譲ってるわけじゃないぞ」
「あれ。ひー君って、甘い物嫌いだったっけ?」
「太りたくないから糖質制限しているだけ……。
あと、伊吹と飯を食ってると、これはなんキロカロリーでタンパク質はなんグラムで……ってうるさいんだよ。その影響。
あいつの前で菓子パンでも食ってみろ。
『それ1個で半日分のカロリーだぞ』とか言ってくるんだぞ」
本当は美空に喜んでもらいたいからケーキを譲っているんだけどな。
「あーっ。そうだ。
ひー君、お弁当に鶏の胸肉とブロッコリーだけ入れるのやめてよ。
友達に『マッチョ目指しているの?』って言われたんだからね」
俺達は義母さんが居ない間の家事を分担をしていて、火木に俺が、月水金に美空が弁当を作っている。
基本的に俺は、前日に美空が夕食を多めに作ってくれるから、翌朝に弁当箱に詰めるだけだ。
ただ、それでも、たまに残り物が出ないときがあるから、その時は俺が調理する。
「それは言っちゃ駄目だろ。歴史が変わるんじゃないの?」
「変わってもいいから。
せめてニンジンや卵を入れて色味に気を遣って。
三年前の私、遠慮して文句を言えなかったんだから」
「分かった。ごめん」
しばらく歩き、田舎特有の広いコンビニ駐車場に到達すると、美空さんが不吉な言葉を漏らす。
「今ってまだファミミなんだね……」
「えっ? 三年後ってファミミじゃないの?
向こうがエイトだから、こっちはファミミがいいんだけど……」
「ご愁傷様です。四方をエイトに囲まれます」
「はあ……。なんで同じコンビニばかり……」
可能な限り利用するからいつまでもファミミのままでいてくれ……と願いながら入店しかけたところで、店内に遭遇したくない人物を見つけてしまう。
「げ……」
俺は美空さんの手を取って踵を返す。
「美空さん、こっち来て」
「えっ。ちょっと。何」
「面倒な奴がレジに並んでた。すぐに出てくる。隠れないと」
俺を校舎裏に呼びだして殴ってきた先輩だ。
名前は知らない。
美空さんと一緒に居るところを見られたら、絶対にろくな目に遭わないだろう。
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