3-6.みんなの呼び方を決める

 食事が終わったら家族会議だ。


 先ずは美空達の呼び方を決めなければならない。五人も美空が居ては混乱してしまう。


 美空達が片付けのために立ち上がるよりも先に、俺は提案する。


「五人も美空が居るから呼び方を決めたいと思うんだけど、どう?」


「あ、それなら考えておいたよ。

 小学生の私は、みーちゃん。そういうあだ名だったし。

 中学生は美空ちゃん、高校生が美空、私は美空さん。

 で、お姉は愛沢さん」


「あ。凄い。私も同じこと考えてた」


 大学生の案に高校生の美空が賛同する。


「それいいかも。俺からも呼びやすい」


「ふーん、私は愛沢さんか」


 愛沢さんが不満げな声を漏らしつつ、指先でお皿を軽く突く。


「ごめんね、お姉。

 一人だけ名字だと他人行儀感があるのかもしれないけど――」


「愛沢さんって呼ばれるの、久しぶりで変な感じがするなあ」


 愛沢さんは背もたれに体重を預けて、仰け反り、両腕を伸ばした。


「え? なんで?」


「え? なんで?」


 美空と美空さんが声を完全にハモらせて、愛沢さんに視線を送る。


 愛沢さんは高校生と大学生に視線を送った後、俺に笑みを向け、さらりと言う。


「私、今は中橋だから」


「嘘っ?!」


「嘘っ?!」


 大学生と高校生ががまたもや完璧に声を重ねて、腰を浮かせた。


「きゃっ」


 いつの間にかうとうとしていたみーちゃんが声に驚いて、周囲にキョロキョロと首を振る。


「なーんてね。二人とも、今の反応、どういうことかなあ?」


 愛沢さんが過去の自分にニマニマ笑顔を向けて、甘い声。

 どうやらさっき俺をからかったから、今度は過去の自分を弄って遊んでいるらしい。


 美空が顔を真っ赤に染めて俯いている。それは、どういう感情なんだ。


 美空さんは美空ほどではないが顔を赤くして、ばつが悪そうに口を尖らせている。


 二人の反応、俺に都合よく解釈してもいい?


「こ、これは恥ずかしい……。

 でも、この感情、参考になる……」


 美空がスマホを取りだして操作を始めた。


「ちょうど恋愛物に挑戦中の私にはいいんだけど、正直、お姉の悪戯、心臓に悪い……。

 祭りの太鼓乱舞さながら心臓ドンドコ言ってるよ」


 美空さんもスマホを手にして、せわしなく指を動かしている。


 何はともあれ、二人とも俺と結婚する可能性について嫌がっていなかったよな?


「こうして適度に真偽不明のことを言っておけば、今後うっかり口を滑らせても、嘘でしたーって言えるでしょ。伏線を張っておかないと」


「えー。それって、予防線を張っているだけだよ?」


「それに、登場人物は絶対に嘘をつかないって思いこんでいる読者も居るんだからさ、そういう嘘は良くないんじゃない?」


「そうだよ。意図的に書いているのに、こっちとこっちで台詞が矛盾しているって指摘が来るんだよ」


「若い頃の私の意見、新鮮だぁ……。ねえねえ、もっと聞かせて」


 んー。三人が顔を寄せて何か盛り上がっている。なんの話だ?


 食器は俺が代わりに片づけておくか。

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