第4話 共同生活のルールを決める

4-1.寝具が足りないから、愛沢さんが俺と一緒に寝ると言いだした

「あっ」


 やけに静かだと思ったら、みーちゃんがうとうとと船を漕いでいる。


 小学生だから十九時は、もう眠いんだ。


「美空。みーちゃんが眠そうだから、お布団を用意しないと……」


「あっ、そっか」


 中橋家にある寝具は、俺と美空の部屋にベッドが一つずつ。

 義父さんと義母さんの布団が二つ。


 今この家には俺と五人の美空が居るから、寝具が二セット足りない。


 俺は当然、俺の部屋のベッドで寝る。

 美空は美空のベッドだろう。


 義父さんと義母さんのベッドに、愛沢さんや美空さん達に寝てもらうとして――。


 俺が視線を向けると、愛沢さんが「はーい」と手をあげる。


「私、義母さんの布団でいいわ」


「あ、ズルい。私が義母さんの布団」


「こういうことは年功序列で決めるべきだと思うの」


「ええ……。私こんな卑怯な大人になりたくない」


 二人は遠回しに、義父さんの布団が嫌だと言っている。

 義父さん泣くぞ。


「しょうがないなあ。

 じゃあ、義父さんのお布団を愛沢さんに譲って、私がひー君のベッドで寝るかあ」


「愛沢さんが俺のベッドで寝たら、俺はどうするんですか」


 いや、というか大人の女性が俺のベッドを使うなんて、なんだかとてもエッチでいけないことのような気がする。


「ん?

 質問の意味が分からないんだけど。一緒に寝るでしょ?」


「えっ?!」


「いつも一緒に寝ているでしょ……。

 あ、口が滑っちゃった」


 震える手で愛沢さんが口を押さえると、それを見た美空さんが溜め息を漏らす。


「はいはい。言い方しらじらしい。

 お姉、未来ネタで、からかうの禁止」


「そうだよ。変なこと言うと、泊めてあげないんだから」


 美空さんの抗議にあわせて美空が声を張った。美空にとって自分自身との距離感が掴みきれていない中での、最上級の意地悪発言だろう。


「え、でも、ここ私の家だし?」


 愛沢さんは二人の口撃をあっけらかんと受け流した。

 強い……。


 美空達がきゃいきゃい姦しく騒ぎだす。


 この人達は放っておこう。


 とりあえず、みーちゃんは寝る前にお風呂に入ってもらうか。


 とはいえ小学一年生って一人で入浴できるものか?


 よく分からないから、中学生の美空ちゃんにお願いしよう。歳も近いし適任だろう。


 俺はみーちゃんの肩を揺すって起こす。


「みーちゃん、寝る前にお風呂に入ろっか?」


「……うん」


 俺は全く自覚がなかったが、今の発言は思いっきり言葉足らずだったらしい。


「ひー君?!」


「えっ、ちょっと」


「駄目でしょ!」


 美空、美空さん、愛沢さんが一斉に俺へ顔を向けた。


 三人とも同一人物なんだなあと思わせる、同じ驚きの表情だ。


「ねえ、ひー君、小学生の私と一緒にお風呂に入りたいの?」


「ちょっと待て。変な勘違いをするな。

 美空ちゃんに入れてもらおうと思っただけだ」


「あっ、そ、そうだよね」


「えっ。もしかして三人とも、凄く失礼な勘違いしてない?!」


 三人は一斉に俺から視線を逸らし、布団の割り当ての話題に戻った。


「ええ……」


 どうやら俺は小学生女子と一緒に風呂に入ろうとしていたと誤解されたらしい。ちょっと悲しい。


 俺は涙を堪え、みーちゃんを連れて美空の部屋に向かった。

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