3-3.義妹が五人に増えたけど、なんとか上手くいきそう?
俺は居間に一歩入った所で立ち止まる。
五人を見て、一つだけ思い当たる節がある。
俺が帰宅する前、自転車置き場で伊吹を待っていた時だ。
スマホに変なアンケートが表示されていて「好きなあの子が貴方に会いに行く」とか書いてあった。五箇所の入力欄に俺は、みそら、美空ちゃん、美空、美空さん、愛沢美空と入力した。
いや、まさか、いくらなんでも……。
スマホを出してSNSを表示してみると、例のアンケート画面は消えていた。
「あっ。そっか」
俺がドア付近で立ち尽くしてスマホを見ていたから、美空が声を出して、壁時計に視線を送った。
「そろそろ準備しないといけないけど、六人分の夕食がないんだ」
どうやら俺が夕飯の準備について考えていると勘違いしたらしい。
俺は、モヤモヤした思考を追い払うため、美空の勘違いに乗る。
「どうする? 今から何か買ってくる?」
「冷凍の豚バラがあるからおかずは用意できるけど、ご飯は炊いたの二人分……。
レンチンのあったかな?」
「足りなかったらコンビニダッシュするから、とりあえずレンチンのご飯があるか確認して」
「うん」
美空が立ち上がり台所へと向かうと、社会人と大学生の美空も腰をあげる。
「手伝うよ。準備倍以上だもんね」
「じゃあ私も。三人でやれば六人分も直ぐだよね」
「あ、ありがとうございます。
あの、お二人とも料理ってされるんですか?」
三人がぎこちない会話をしながらキッチンへ向かう。
声が同じすぎるせいで、姿が見えなくなると誰の発言か分かりにくくなっていく。
「なんとなくだけど、お姉って料理下手そう」
「いやいや、私、未来の貴方よ?
君達より料理、上手だよ?
パないよ?」
「えー、本当?
私だから分かっていると思うけど、今の私は……。
って……こっちの美空には内緒にした方がいいか」
「そうそう、それは内緒」
「え? なんです? なんのことですか?」
「いいからいいから。
三人で美味しい料理を作って、ひー君を驚かせよう」
「メニューはお二人にお任せして、私はお手伝いした方がいいですか?」
「敬語やめようよ、自分なんだし」
「え、でも、いきなりは」
「追い追い慣れていけばいいでしょ。
先ずは冷蔵庫と相談。
ひー君は白米とふりかけさえあれば、あとはなんでも満足なんだし、
私達の分はパスタでも茹でる?
ちびっ子はナポリタン好きなはずだし」
「あっ、そうだ。今ってあれでしょ。
ひー君がカップ麺チャーハンを作ることにはまっていたくらいでしょ?
ネットで見かけたお手軽料理を試したくなる年頃」
「うん。土曜日とか日曜日にひー君が作ってくれます」
「えっ。そうだっけ。七年も経つと記憶が曖昧だ……。
そういえばひー君って学生の頃、プロテイン入りのヨーグルトばかり買ってなかった?」
「買ってた買ってた。
箱買いするから冷蔵庫の中が同じヨーグルトばかりだった」
「私は知らないです」
「あ、やばっ。
こういう発言って未来が変わっちゃうやつ?」
聞こえてしまった……。
俺は未来を変えないためにも近い将来、プロテイン入りのヨーグルトにはまらなければならないのか。
さて。居間には俺の他に小学生と中学生の美空が残った。
小学生の美空とは完全に初対面だから、どう接すれば良いのか分からない。
ん?
くいくい。
小学生の美空が俺の袖を引っ張ってきた。
「ねえ、お兄ちゃん。これ本当にわたしなの?」
小学生の美空がアルバムから一枚の写真を指さす。
校舎を背景にした、小学六年生の集合写真だ。
「そうだよ」
「そうかなあ。わたしの方が可愛いと思う……」
「……美空ちゃんはいつでも可愛いね」
ご機嫌取りをしてみたが、美空ちゃんの表情は浮かない。
「アルバム飽きたし、わたし、そろそろお家に帰りたい」
「え?
……お家ってここでしょ?」
「違うよ?
わたしのお家ここじゃないよ?」
「ん?
……あっ!」
そうか。中学以降の美空達はこの家で暮らしているから、ごく自然とここで夕食を取り今晩泊まっていく気になっている。だけど、小学生の美空ちゃんだけはこの家で生活をした経験がないから帰るつもりになっているんだ。
「えっと……」
よくよく考えれば拙い。
社会人や大学生の美空は、家族と離れ離れになっても寂しさを我慢できるだろうし、既に一人暮らしをしている可能性もある。
中学生の美空は悲しいことだけど、両親を失った直後なのでタイムスリップしようがしまいが、孤独さは変わらない。
小学生の美空ちゃんだけは両親が健在な時代で生活していた。
美空ちゃん目線だと、いきなり知らない家に来て、両親と会えなくなった状況だ。
家族と別れてまだ数時間だろうから実感は少ないはずだが、いずれ不安は大きくなるだろう。
窓の外は暗くなり始めている。
ここに泊まることを、どうやって理解してもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます