第32話

 王城で開かれた今回のパーティーは特別で、社交シーズンのものとは異なるために長くタウンハウスに滞在する必要は無いらしい。

 だけれど、王家主催ということもあり後日、目に止まってお茶会などにお誘いいただけることもあるとのことで数日は待機していないといけないそうだ。


「厄介だろう?」


「……けれど、王家のお誘いは本来とても喜ばれるものですから」


 パトレイア王国にいたときも、似たような話は耳にしたことがある。

 もっぱらそういうお茶会を開くのは王妃様で、次いでサマンサお姉様だったけれど。

 正確には王妃様は兄を……唯一の王子を自慢したり、より良い婚約者を探すためにご令嬢たちを気に掛けていたという話だ。


 そればかりが目立ってはいけないから、当時まだ婚約者が同じように定まっていなかったサマンサお姉様が友人を探しているという名目でお茶会が開かれ、令嬢たちが集められたのだとアンナが言っていたのを思い出す。


 ちなみに私は、声を出した茶会を開いたところで誰も集まらないだろうと……開いたことはない。

 王妃様にも、良い顔をされなかったでしょうし。


(……『また浪費するのか!』って言われちゃうものね)


 実際には浪費なんてしたことはないけれど。

 自分のサイズにあったドレスや下着を数着求める程度なら、それは貴族の令嬢でも当然のことだとビフレスクも教えてくれたし。


「それにしても不思議ですよね。奥方様は話してみれば見るほど聡明な方ですのに、何故パトレイア王国ではあれほどまでに悪評が広まったのでしょう。誰とも話す機会が無い、なんて方が不自然にも程があるかと思いますが」


「それは俺も思った。浪費を懸念して侍女を遠ざけたというなら、普通はその後に機会を設けて諭したりするよな?」


 イザヤの疑問に、アレン様も頷く。

 言われて、私もそれがおかしい・・・・ことだと心の内で同意する。


(そうよね、違うと何度か言ってみたけれど全く聞き入れてもらえなかった。あれは、今にして思えばだけれど……おかしな話だわ)


 王妃様は、さも真実を知っているのだ……というような雰囲気だったと思う。

 私は、聞き入れてもらえないことに諦めの方が勝っていたからそれについて詳しく聞かなかったし、知ろうともしなかったけれど。


 でも確かに放っておかれすぎじゃないだろうか。

 あそこまで放っておいて、どうして浪費しているだの私がイジメを行っているだの……そんな根も葉もない噂が立ったのだろうか。


 当時は何もかもがもう怖くて、目も耳も塞いでただ息を潜めていることを選んでしまったけれど、こうして第三者に言われてみればその異常さはよくわかる。


(もしかして……パトレイア王国に何かよからぬことが起きているのかしら)

 

 私は求められていない女の子で、しかも双子だったから嫌われていた。

 私付きにされた侍女たちは、他の姉姫を贔屓していた……わけではなく、兄の侍女になれなかったことを悔しがっていたという。


 私はそれを『どうでもいいことだ』と何も考えずにいたけれど……よくよく考えればおかしな話だ。

 王家の姫が多少我が儘だったとして……実際に殺傷沙汰だとか、国費を傾けるまでもならない状態でどうして私の悪名はそこまで広まったのだろう?


(……仕方がない、で割り切っていてはいけなかったんだわ!)


 どうせどうにもならないから。

 そうやって自分で勝手に完結させていたけれど、これは放っといてはいけない話だったのではないだろうか。


 今更、外に嫁いだ私の悪名をどうのこうのと言うつもりはないけれど……もしもそれが本当にただの悪意ではなくて、パトレイア王国に仇をなす者がいてのことだとしたら、巡り巡ってアレンデール様にご迷惑がかかるのではないだろうか?


(そうよ、確かに教師を変えられた後にまた私が我が儘を言った、って……)


 わざわざ教師たちまで遠ざけるって、一体何があったのかしら。

 私はこれまで自分を知ろうともしなかったことに、今更ながら震えるのだった。

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