第8話

 そうして旦那様にも許可をいただいて、私はアンナを伴って教会へと足を向けた。

 母国もこの国も、同じ宗教を崇めていることもあって安心して祈ることができた。


 周囲の人々は見慣れない存在である私に興味があるのか、ちらちらと視線を向けてきていたけれど……別に気になるというほどでもない。


「アンナ、神父様とお話をしてくるから、そこで待っていてくれるかしら?」


「かしこまりました」


 懺悔をしたかったけれど、告解のための部屋はここにはないという。

 辺境の厳しい生活の中で野盗に押し入られ隠れ場所にされたこともあったのだとか。


 とても大変なのだなと思うと、私はあの離れで暮らさせてもらっていることに罪悪感を覚えた。

 のうのうと、守られて生きているのだなあ。

 私よりも価値のある人々が、町にはたくさんいるだろうに。


 思わずそう零してしまったら、神父様はとても困った顔をしていらした。


「ごめんなさい、神父様。今の言葉はどうか忘れてくださいまし」


「……心得ました。それで、懺悔をお望みだったのですか?」


「いいえ。少々伺いたいことがございまして……ああ、それとこれを。寄進の代わりになりますかしら」


 私は神父様にイヤリングを渡した。

 個人で持ってきた、数少ない私物だ。

 それでも王女の私物なのだから、おそらく物自体は良いはずなので価値がつけば良いのだけれど。


「売り方も存じませんの。お手間をかけて申し訳ないのですが……」


「奥方様、貴女は一体……いえ、今は問いますまい。それで、聞きたいこととは?」


「この教会に限らずですが、この国でも教会は行く当てのない者を迎え入れてくださいますでしょうか」


 私の言葉に、神父様がギョッとする。


 そして周りに視線を巡らせて、大きなため息を一つ。

 ああ、まだお若い神父様なのに苦労を背負わせてしまうのだろうか?


 一応辺境伯家からは遠い教会を選んで出家するつもりだけれど、私の問いかけはどうやったってその意思があるとわかってしまうものだから。

 領主の妻が出家したがっているとなれば、それを耳にした神父様にご迷惑がかかることはわかりきっていたでしょうに。


(相変わらず私は考えが足りないのだわ)


 教会の教えがある以上、困っている人を見捨てることはできない。

 出家を望む人間が、教会を頼る人間がいる限り、彼らはそれを受け入れざるを得ないのだ。


 しかし私が離縁された後、母国に戻るのも憚られるし……兄はきっと出戻っても迎え入れてくれるだろうけれど、両親からしてみたら不出来な娘が戻ってきても利用価値はないんじゃないかと思うとどうしても修道女になるのが一番安全な気がする。


「……言い方が悪く誤解をさせてしまったようで申し訳ありません。故郷でも、そのような取り組みをする教会がありましたので私も個人的に支援などを送らせていただけたらと思って」


「あ、ああ、さようでしたか。この国ではどこの教会もそのような取り組みをさせていただいております。支援をしていただければどのような形でも喜ぶことでしょう」


「ありがとうございます。今はまだ嫁いだばかり、婚家に迷惑をかけるわけにも参りませんのですぐにとはいきませんが……せめて、祈りを捧げることを許していただけたらと思いますわ」


「神も敬虔なる信徒を見守ってくださいます」


 神父様の手前なんとか取り繕えたと思うけれど、どうかしらね……?

 私が出家をしようとしていると旦那様に報告があがったら、困らせてしまうかしら。


 せめて、辺境伯家にご迷惑がかからないように考えようっと。

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