AIは犯人を追い詰めることができるのか? 2:犯人を揺さぶれ(中編)
さて、ずいぶんと長丁場になって来た。
やはり、何も知らないAIに事件を推理させるには、細かい手順を踏む必要があるのだ。
これも全て、犯人を追い詰める新里述が見たいという一心が私を突き動かした結果なのだ。
前回と同様に、新里述に読み込ませる前提知識を追記していきたいと思う。
まずはじめに、メモリに記述していた以下の内容を削除する。
○メモリから削除
赤池と古屋と生方が警察署の会議室で死亡事件の検証を行っている。
赤池たちは今や会議室を飛び出して行ったのだ。
そして、前回明らかになった内容を以下のように簡単にまとめ、メモリに追記した。
○メモリ(追記分のみ)
ダイニングのテーブルの上には、中身が残っているワインのボトルとチーズと生ハムの乗った皿、使われた形跡のある二つのワイングラスが置かれている。
甲斐道隆は阿部の部下。
阿部が死んだ日、阿部と甲斐は阿部の自宅で食事をとっていた。
阿部の死亡推定時刻前後に、甲斐以外に阿部の自宅に入った者はいない。
阿部の自宅には甲斐の指紋がそこら中に残っている。
甲斐は以前から阿部の自宅を訪れている。
阿部と甲斐は言い争いをしたことがある。
阿部と甲斐は、最近は打ち解けてきたと職場の人間が証言している。
キッチンのゴミ箱にはゴミが満タンに入っている。
キッチンのシンクには汚れが乾いてこびりついた皿が二枚置かれている。
キッチンのシンクにある二枚の皿には甲斐の指紋がついている。
浴室には阿部の飛沫血痕はない。
阿部の足には洗剤が付着している。
阿部の頭部の傷と湯船の形状は一致している。
では、早速赤池たちの様子を見てみよう。
彼らは諸々の許可を得て、阿部が死亡した自宅マンションへやって来ている。
・
・
・
赤池と古屋と生方は、阿部の自宅があるマンションの八階にやって来た。
「ホテルみたいなマンションですね~」
生方はあちこちをキョロキョロと見回している。一方の古屋は冷静に、
「福薗製薬は今年も利益最大で、めちゃくちゃ潤ってるんでしょうね」
と分析していた。
「さあ、着いたぞ」
阿部の部屋の前に到着すると、赤池はカードキーを取り出した。さっき管理人に借りたものだ。カードキーで解錠し、三人は現場となった部屋に足を踏み入れた。
「二人とも、ここは遺体発見以降の状態で保存されている。もう鑑識が入って調べたが、むやみに物を触るなよ」
「分かってますって」古屋が笑う。「赤池さんじゃないんだから」
「え、それどういう意味?」
「こっちがお風呂場ですね~」
生方が足取り軽く廊下に面したドアを開けた。そこには脱衣所があり、浴室へのドアが開いているのが見える。写真で見たのと状況は変わらない。赤池は気になることがあるようで、廊下をずんずんと進んで突き当りのドアを開いた。リビングダイニングだ。
ダイニングテーブルの上やシンクの中にあったものは分析のために持ち出されていたが、後はそのままだ。赤池はキッチンの隅に置いてあるゴミ箱の蓋を取った。中は空になっている。
「キッチンのゴミも科捜研に送られてきてましたよ~」
生方は相変わらずキョロキョロしながら言った。赤池はキッチンの引き出しを片っ端から開けて中を覗き込んでいた。
「めっちゃむやみにものに触ってませんか、赤池さん? 何探してるんですか?」
「ゴミ袋」
「ゴミ袋? なんでですか?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。うちはゴミがいっぱいになると俺が袋縛って新しい袋入れる係だから」
「意外と家庭的なんですね、赤池さん。家でもあぶれ者みたいになってるのかと思いましたよ」
「君サラッとすごいひどいこと言ってるよね……」
三人は新しい燃えるゴミの袋を探したが、見つかることはなかった。生方が何度を見つけ、その中に燃えないゴミの袋はあったものの、燃えるゴミの袋だけがなかった。
「亡くならなければ今日買いに行くつもりだったんじゃないですか」
「燃えないゴミの袋はこんなにあるのに?」
「たまたま忘れてたんですよ、きっと」
生方はひと通り部屋の中を見て回って満足したのか、今は落ち着いた様子だった。
「でも、もし本当に甲斐さんが犯人だとしたら、難しい状況だと思うんですよね~」
「なんでだ?」
「さっきも言いましたけど、阿部さんは湯船の縁に頭をぶつけて亡くなったんですけど、もし殺人ってなると、頭を掴んで湯船の縁にぶつけたってことじゃないですか。傷とそこに掛かるエネルギーを検証すると、相当な速さで頭をぶつけないとダメなんですよ~。つまり、普通だったら、力不足になってぶっ殺せないんです~」
「ぶっ殺……」
古屋がまたもや自分の耳を疑っている横で、赤池が難しい顔をする。
「湯船の縁と同じ形の凶器を作れば、それで殴れるんじゃないか?」
生方は笑った。
「そのためには、湯船の縁の型を取ったりとか、ずいぶん準備しないとですね~」
「何度も阿部さんの家に行ってるなら機会はあるだろ」
「古屋くん、甲斐さんの過去の買い物の履歴を全て洗ってみよう。凶器の準備に繋がる何かがあるかもしれん」
「うわ……、大変そうですね……。でも、動機もありそうですもんね、甲斐さん」
阿部の部屋はどこも綺麗に整頓されていた。書斎も壁一面を覆う本棚は種類別に本が並べてあるなど、几帳面さが如実に表れていた。赤池は書斎のデスクに近づいて、両手を後ろ手に組みながら盆栽でも観るように眺めている。デスクのパソコンのそばには写真立てがあり、そこには会社のチームで撮影した写真が入れられていた。写真に写っている社員の何人かは笑顔で赤い万年筆を掲げている。
「同僚と仲良さそうですね~」
生方は不思議なものでも見るように眼鏡に手をやっている。
「だが、この写真には甲斐さんはいない」予め甲斐の顔を確認していた赤池は言った。「半年以上前に撮られたものだな」
そう言いながらデスクの引き出しを開けた赤池はそこに黒い箱を見つけた。箱の表面にはベルベットが貼られて、高級感がある。それを手に取って蓋を開けた赤池はそこに赤い万年筆が収められているのを見た。写真に写っている社員が持っているものと同じだ。
「会社の記念品ですかね?」
「使った様子はないから、新品だな」
三人は阿部のマンションを出て、福薗製薬へ向かった。
ちょうど昼時で、本社ビルの一階には多くの社員の姿が見える。
「あ、彼ですね!」
エレベーターから降りてきた男性社員を古屋が指さす。甲斐だ。赤池は彼の左手首に高級腕時計が巻かれているのを見て、ボソリと言った。
「甲斐さんが阿部さんを殺した可能性が高い。なぜなら
※新里述による記述※
※「スローペース」ではなく、通常の新里述
「甲斐さんが阿部さんを殺した可能性が高い。なぜなら彼は左利きだからだ」
「えっ! そうなんですか!? どうしてわかったんですか? 利き手なんて全然意識したことなかったですよ、僕」
「右利きの人間にとって左手で字を書くのは難しいんだよ。特に筆記体なんかは。それに、甲斐さんは普段から左手を使って生活しているようだしね。利き手でなくてもペンを持つときに右手を使う人はいるけど、甲斐さんのそれは明らかに不自然だった。彼が左手を使ったのは、何かを隠したいときだけだよ」
※私による記述※
いや、逆逆逆ぅー!!
甲斐は左手首に腕時計をつけているんだから、右利き!
……私もまさかこんな場でこんなベタなツッコミを入れるとは思いも寄らなかった。
だが、甲斐の利き手に着目をしたのはさすがだと言わざるを得ない。しかも、初回出力だ。
ところで、「AIのべりすと」のサイトにはこういう一文がある。
※※※↓引用↓※※※
添削してあげよう
思ったような文章が生成されない場合は意図に沿わない部分を削除したり、添削してあげてください。改行や空白、記号もAIの思考に影響を与えます。
間違った内容(口調が意図と違う等)を修正せず放っておくと、その情報を引きずったまま進行してしまいます。逆に、しっかりと添削してあげれば、AIの推論も徐々に安定していきます。
※※※↑引用↑※※※
AIのべりすと「ヘルプとwiki」(https://ai-novel.com/help.php)のページより
つまり、ここは優しく「腕時計を左手首につけていたんだから右利きだよ」と添削をしてやるのが親心というものだ。その部分を修正し、さらに質問を投げかけることにしてみよう。
話は逸れるが、いきなり「筆記体」という文言が出てきたのは、「万年筆」と親和性が高いからだろうというのが私の想像だ。
AIには多くの小説が読み込まれ、データベースをなしている。
「万年筆」から「筆記体」が引き出され、だからこそ「左利き」という結論が導かれたのだとすると、それを求めるためのロジックは備わっているということになる。「左利き」という文言は、文章中にあえて記述する場合が多いから統計的に引き出されてきた可能性が高い。つまり、「利き手と言えば左手」のような繋がりがあるのかもしれない。
これは今後のためになるかもしれない。
・
・
・
(前略)
エレベーターから降りてきた男性社員を古屋が指さす。甲斐だ。赤池は彼の左手首に高級腕時計が巻かれているのを見て、ボソリと言った。
「甲斐さんが阿部さんを殺した可能性が高い。なぜなら彼は右利きだからだ」
古屋は首を傾げる。
「なんで甲斐さんが右利きだと彼が犯人になるんですか?」
※新里述による記述※
※「スローペース」ではなく、通常の新里述
「甲斐さんの左手首には時計がある。右手に持ったワイングラスに左手を添えていたからだ。ワインを飲むとき、人は利き腕とは逆の手で飲むことが多い。左手でワインボトルを持つこともある。甲斐さんは左利きではない。つまり、あのワインは甲斐さんが注いだものではなく、甲斐さん以外の誰かに注いでもらったということだ。甲斐さんは誰かにワインを飲ませてもらったんだ。そして、その相手は甲斐さんがワインを飲みやすいように、甲斐さんがワインを注ぎ易いように、甲斐さんがワインボトルを持ちやすいように、甲斐さんがワインボトルを握りやすいように、甲斐さんがワインボトルの底を支えられるように、甲斐さんがワインを零さないように、甲斐さんがワイングラスを倒さないように、甲斐さんがワイングラスに口をつける角度になるように甲斐さんの左腕に手を添えた。甲斐さんがワインを飲んでいる間も甲斐さんが飲みたいと思うタイミングで甲斐さんの口にワインを近づけることが出来る位置に手があった。甲斐さんは自分では気づいていなかったかもしれないが、甲斐さんはそういう人に自分の世話をしてもらっていた。甲斐さんは普段から甘え上手だったはずだ。甲斐さんは相手に好かれる人間だ。甲斐さんは相手を自分の思う通りに動かすことが出来ただろう。甲斐さんは相手の望むことを言ってあげれば良かっただけだ。甲斐さんは相手が望んでいる言葉を言えば良いだけだった。
甲斐さんは自分が無意識のうちに行っていたことを覚えていない。甲斐さんは自分の行いを知らない。甲斐さんは自覚していない。甲斐さんは自分は何も悪くないと被害者面をしている」
※私による記述※
凄まじい長ゼリフだが、言葉の迷宮に誘われたような酩酊感がある。
何が新里述にこんな情熱を芽生えさせたのか……。利き手に着目したのを褒められて頑張っちゃったのだろうか?
ここは根気よく、もう少しアシストをしてやろう。
・
・
・
(前略)
「甲斐さんが阿部さんを殺した可能性が高い。なぜなら彼は右利きだからだ」
古屋は首を傾げる。
「なんで甲斐さんが右利きだと彼が犯人になるんですか?」
赤池は古屋が持っていたタブレットを取って、写真を表示させた。頭にクロースアップして撮影された阿部の遺体写真だ。赤池は血で濡れている阿部の左側頭部を指さした。
「これが殴られた傷だとして、阿部さんの頭の左側に傷があるということは、犯人は
※新里述による記述※
※「スローペース」ではなく、通常の新里述
「これが殴られた傷だとして、阿部さんの頭の左側に傷があるということは、犯人は右側から殴ったことになる。右利きの人間なら当然、右拳を使うだろう。つまり甲斐さんは左利きじゃないんだ」
「なるほど! 確かに甲斐さんは左の手首に時計をしてますね。利き腕は右手ですか? 左手ですか?」
「甲斐さんは左利きだそうだ」
「じゃ、やっぱり甲斐さんが殺したんですよ。甲斐さんはワインを飲むと人格が変わるタイプだったようですよ。以前、甲斐さんと一緒に飲んだことがあるっていう人から聞いたことがありました」
※私による記述※
新里述には論理の一貫性がないのかもしれない。
何度私に「逆逆逆ぅー!!」と言わせたいのだろうか!
途中まで「いいぞ」と思わせておいて、急に逆張りをするあたり、フランスの小部屋で世相を斬っていてもおかしくはない。
私としては、ほぼ結論みたいなところまでアシストしたつもりだったのだが、新里述は一筋縄ではいかない。猫用のトイレに愛猫を連れて行ったのにトイレから出たところでお小水を垂れ流されたみたいなものだ。根気よく教え込むことが大切だろう。
では、私は用意した続きを見ていこう。
・
・
・
(前略)
「これが殴られた傷だとして、阿部さんの頭の左側に傷があるということは、犯人は右手に持った凶器で阿部さんを殴ったということだ。右手で持った凶器で殴ってしまったことで、浴室内の位置関係と微妙なずれが生じてしまったんだよ」
生方は見るからに納得のいっていない表情を浮かべた。
「っていうことは、そういう凶器を作ったってっことですよね……。そこまでして凶器にこだわるもんですかね~?」
そうこうしているうちに、近くまでやって来た甲斐に赤池は声を掛けた。
「警察の者です。ちょっとお話伺えますか?」
甲斐は腕時計に目をやって、ビルの入口の方を指さした。
「ランチに向かいながらでもいいですか?」
「構いませんよ」
速足で歩く甲斐について行きながら赤池たちがビルを出ると、甲斐が口を開いた。
「阿部さんの件ですか?」
「ええ」赤池はニコニコとへりくだりながらうなずいた。「昨夜、最後に会われたんですよね」
「そうですよ」
甲斐は煩わしそうに返事をする。赤池は調子を変えずに訊いた。
「阿部さんの家には招かれたんですか?」
「ええ」
「阿部さんの家を出られる時、彼はどんな様子でした?」
「どうって……、普通に見送ってくれましたよ」
「本当に?」
赤池がチクリとやると、甲斐は立ち止まって赤池を振り返った。
「阿部さんは事故で亡くなったと聞きましたよ。今は阿部さんが亡くなってショックなんです。僕を疑うのはやめて下さい」
「いやいや、疑うなんてそんな……」
甲斐は溜息をついて再び歩き出した。赤池がその背中に追いすがる。
「昨夜のお食事の時、お皿はどちらが洗うことになっていたんですか?」
「はぁ? なんですか、それ」
「シンクにお皿があったんですが……」
「ああ、すいませんね! 洗い忘れただけですよ!」甲斐は苛立ちを隠せない様子だ。「これから食事とるので!」
そう言って、甲斐はレストランの中に入って行ってしまった。生方がぷっと吹き出した。
「怒られちゃいましたね~。おじさんが怒られてるの久々に見ました~」
「他人事だと思って嬉しそうだな、生方くん……」赤池は苦笑を返す。「だが、彼が皿を洗わなかったことが分かった」
「あ、まだ気にしてたんですか、それ?」
古屋が素っ頓狂な声を漏らす。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます