幽霊屋敷

奈良 敦

1話目 幽霊屋敷

 専門学校に通っている19歳の荒川武は1枚の写真を見ていた。

 写真に写っているのは、今にも壊れそうで、家の半分はツタに飲み込まれている空き家だった。昼間でも不気味で、何者も近寄りがたい雰囲気を醸し出している。荒川の通っていた小学校では幽霊屋敷と言われていた。

 この幽霊屋敷で、荒川と幼なじみ2人は誰にも信じてもらえない不思議な体験をした。


 9年前。当時小学生だった荒川は、幼なじみの山下誠・登戸隆の3人でいつも放課後に遊んだり、一緒に下校したりしていた。

 いつも通り放課後に3人で下校中、

 「俺たちもマンガに出てくるような秘密基地を作ろうぜ。俺たちだけが知っている放課後にみんなで集まれる場所」

 冒険小説が好きで、将来は探検家になりたいと豪語している山下が秘密基地づくりを提案してきた。

 「確かに。そういうのいいかもね」

 成績優秀で少し口数が少ない登戸が答える。

 「よくマンガではダンボールで秘密基地をつくるシーンがあるけど、うちにはダンボールは無いし、親に秘密基地がばれたら何されるかわからないよ」

 荒川はあまり乗り気ではなさそうだった。

 「ダンボール?そんなのいらないじゃん。近くの幽霊屋敷を勝手に使えばいいんだよ。気味悪いから誰も近寄らないし、まさかあの場所が小学生の秘密基地だとは誰も思わないよ」

 幽霊など信じない山下が幽霊屋敷を秘密基地に使うという提案に、荒川も登戸もさすがに驚く。

 「いや、さすがにあそこはまずいよ。僕の親もあそこには行っちゃいけないって言ってたし、第一勝手に空き家に入るのは法律的にアウトじゃないの?」

 「俺たちは小学生だから大目に見てもらえるよ。なあ荒川お前もそう思うだろ」

 山下は荒川に話を振る。

 荒川は急に話を振られたことに戸惑いながら

 「まあ、あそこに秘密基地を作ることはできないと思うけど、中を見るだけならいいかもね」

 この荒川の発言がきっかけで、後日3人は幽霊屋敷に行ってみることになった。

 幽霊屋敷に秘密基地を作るという山下の提案は、登戸の必死の説得により取りやめとなった。

 

 ある土曜日。

 3人は13:00に幽霊屋敷の前に着いた。

 登戸はインスタントカメラを持って来ていた。

 「そんなもの持って来てどうすんだよ」

 「そっちこそエアガンなんか持って来てどうするの」

 山下は兄から譲り受けたというエアガンを持って来ていた。

 「かっこいいだろ。もし不審者がいたらいざというときに使うんだ。お前は何も持って来てないのかよ」 

 またしても山下は荒川に話を振る。

 「いや、何も持って来いって言われなかったし。それより早く中に入ろう。こんなところに長くいたら通行人に怪しまれてしまう」

 「よし。じゃあ俺が先に行く」

 山下は自ら先頭を名乗り出て屋敷へと入っていく。次に荒川。最後に登戸だった。

 入口の透明な引き戸を開ける。壊れそうな屋敷にしては引き戸はスムーズに開いた。

 昼間だというのに中はかなり暗いが広い。荒川は懐中電灯を持ってくればよかったと後悔した。中には至る所にクモの巣が張り巡らされており、明らかに昭和に作られたブラウン管のテレビや、黒電話などがあり、ここだけ時間が止まっているようだった。

 部屋の奥に台所があるが、暗くてあまりはっきりと見えない。

 その時、急にピカッと何かが光った。

 「うわ」

 山下と荒川は同時に声を上げた。登戸が持って来たインスタントカメラで撮影をした際のフラッシュだった。

 「お前、写真撮るときは言えよ。びっくりするだろ」

 山下は明らかに不機嫌な様子で登戸にむかって言った。

 しかし、登戸の顔を見ると目を見開き、真っ直ぐ薄暗い台所を見ている。

 「おい、聞いているのかよ」

 山下が声を荒げると、それまで一言も発しなかった登戸が

 「ねえ、だれかいるよね?さっきカメラで光ったとき、人のようなものがいた気がしたんだけど」

 「いや、冗談でしょ」

 山下は自分に言い聞かせるように言った。

 荒川は山下と同意見だった。

 「・・・じゃないよ」

 「おい、どっちか何か言ったか」

 「いや、なにも」

 登戸と荒川は同時に否定した。

 「いま、なんとかじゃないよって聞こえたんだけど」

 荒川は、登戸だけでなく山下が冗談を言い始めたことにうんざりした。

 「冗談じゃないよ」

 前からはっきりと冗談じゃないよと聞こえた。

 

 そこにはいつの間にか腰が曲がった90代くらいの老婆がいた。



          ---続---

 

 



 

 

 

 


 

 

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