4 ディスコミュニーケーション

目の前にあなたが居る。あなたの前には私が居る。そんな小さな空間。交わされる細かな言葉は大層な芸術。誰かには理解されないようなセンスだろうとも、相手方には少なからずわかってもらえる。そんな感覚。それが対話。でもそんな対話を最近は出来ていない。心の底から真心を込めなくたっていいような芯に語りかけることでも何でもない深くない話。声だけでも、言葉だけでも。ただ心を通わせるだけのそれができない。いつからだろうか。しょうもないプライド。吐き捨てるだけの大胆なジョーク。相手をわかり合おうともせずにただ時の流れを待つだけの道化のやり方。でも嫌になってしまったわけじゃない。人と話せば何かと気づきが貰える。自分じゃわからないことだって…。ほら、また同じ。結局無駄な恥や外聞の為に嘘で取り繕う。頭の上には気心の知れた猫もくつろいでいた。

人と関わるのは嫌いじゃない。これだけは本当だ。でも何かとストレスを感じる。不和。不釣り合い。ズレ。ギャップ。面倒くさいんだよ。相手を気遣うことすらままならない私がそんなことを意欲的に取り組みたいわけがない。願わくば好きなだけ話していつの間にかその辺の埃みたいにわっと捨てられてしまえるように会話できる空間があったらな。


そんな場所を見つけた。おおよそ半年くらい前からだろうか。適当なネットの場所に入って会話をするようになった。テキストでもボイスチャットでも問わず。キャラなんてものは一切作らずにありのままの、ゴミの掃き溜めみたいな自分で。そこでやっと気づけた。人はみんな腐ってる。誰も石を投げたりなんかできない。白昼に晒されたものだけが社会という無機質かつ血の通っている物体に叩かれるだけで、全員が全員、聖人君子ってわけじゃない。この人は私よりも数段人としてはいけない人物だというのが会話で伝わってこようが何も関係がない。ただ数刻の時間のみを共にする人なのだ。どんな人物なんだろうが好き勝手言って仕舞えばいい。規約に反さない限りは追い出されることなんてない。相手が求めることをしなくていい空間は私にとって最高の至福の時だった。酒池肉林よろしくただそれを貪るだけ。そうしてキャッチボールをしようと持ちかけられようとも問答無用でボールを蹴り返すような生活を繰り返していた私。それで出来た人格こと、ディスコミュニケーション。

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