第4話 王子様は何処でしょうか
片手には大きな金貨の入った包袋をぶら下げながらスラム街を目指す。かなりの額と交換してもらったので最悪変な輩に襲われてもいくらかは渡して和解にしてもらおう。貿易センターから出てみれば外が暗くなりきっていて、さっきのパーティーが夕方だったことを思い出す。
今これからまさに夜を迎えるという時にスラム街に行くのは危険すぎる。貿易センターの近くにはありがたいことにここを通る商人用の安い宿があちらこちらに散らばっていて、ホテル街になっている。値段を見て見るも、この大量の金貨さえいればあまり気にすることもない。
大量に店はあるから選べるし、お金にも困ってはいない。問題はどの店も代わり映えがないことだけだ。中はどこも似てるし、値段も変わることは大幅にはない。とりあえずある店を見渡すようにぐるっと一画を歩く。
ここから少し行けばスラム街が近いから、治安が完全に良い訳ではないが、あの狂った城内よりは数倍マシだ。いや、それはこの街と、住む住人たちに失礼すぎた。みんな商人達は自分の商いに夢中だし、街に生きる子ども達も笑顔が自然だ。城内の洗脳されたかのように笑う大人たちとは雲泥の差だ。
「ここにしよっかな…」
歩き回ってみた中で一番キレイで一番サービスの良さそうな店を選ぶ。値段もキレイな割に安くて驚いた。
「あの、大人一人お願いします」
私は提示されていた金額にチップをのせてプレートにのせる。宿の店員は会釈をして笑顔で対応してくれた。
「こちらがお部屋の鍵です。あと、お着替えはあちらに。チェックアウトは――」
この店ではかなりのことがセルフサービスらしく、それゆえ値段が安かったのだなと悟る。でも、対応は最高だったし、ご飯もついていたので悪くはないと思う。それに私はこの辺りで顔がある意味知れているのだから一人になりたい気持ちもあった。
用意されている簡素な服やタオルを手に取り、部屋へ向かった。部屋数も多くて私が例えられてわかりやすい例ならビジネスホテルの一択に尽きる。かなり奥まで行ったところで渡された鍵番号の部屋を見つけたので入る。中はローテーブルとベットだけでいかにも泊まるだけという目的が丸見えの部屋だった。
もう時間は日をまたぐ1、2時間前で食事もここではお決まりのセルフサービスのビュッフェだという。入浴は大浴場があるので行ってみるか。残念ながら部屋に風呂は付いていない。
部屋を出て上を見上げると吊り看板に“大浴場はこちら”とご丁寧に書かれていた。タオルと、借りた服を手に看板の指す方向に歩き出す。廊下には商人で溢れていた。今日の取引はどうだったとか、家族の話やらそんな他愛のない話ばかりをしていた。
「なあ、知ってるか隣の大国の王子の話。奇抜で奇想天外な方だとは聞いていたが、ついに城を飛び出したらしいぞ。本当に何考えてるんだかな」
「俺らの国女好き王子よりは強そうだな」
その会話だけが私の耳を通り抜けずに残った。この近くのどこかに王子様がいると知ったのだから。
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