第3話 全て捨ててしまいますわ

スラム街までここからかなりの距離がある。この豪華な服装でスラム街まで行ってしまえば襲われること間違いなしだ。そうなってしまえば取り返しのつかないことになりかねないので、ここから東に歩いたところら辺にある行商の仕入れ場に引き取ってもらおう。目にもつかなくなるし、簡素な服装な方が動きやすいだろう。




そう決まってはあやふやだった歩みを意志を持ったものに変えて取り引き場へむかう。治安が悪いところではなかったはずなので安心しても大丈夫だと思う。だが、この世界で悪女とされてしまった私が見つかれば大変な事になりかねないので気は緩められない。




たしか、ここ曲がり角を左に曲がれば近道な気がする。ゲームに没頭したことない自分が唯一気になってやりこんだのでマップは脳内に入っているし、裏ルートの近道もたくさん知っている。ここから先で道に悩むということは無いと断言出来るレベルだ。




左に曲がったあとはある程度直進して、猫の眠る家を右に曲がれば貿易センターの古びた門が見えるはず。




“貿易センターへようこそ!国内屈指の交易をお楽しみください!”




思っていた通りの、いや、それより錆びてボロくなった大きな門が私のことを迎え入れた。よし、手短に終わらせてここを去らなければ。市場には綺麗なドレスや宝石の数々が並んでいる。周りにはどれだけ安く仕入れるか、値切る行商とどれだけ高く売るかを競う売り手で賑わっている。最近の商品の流行は煌びやかなものなのだろう。だとしたら私はなかなかの幸運の持ち主だ。今の私が纏うものは目がチカチカするほどに眩しく輝くものだらけだ。




「お姉ちゃん、その服にアクセサリー、全部でこれくらいで買い取るよ、どう?」




一人の商売人がとんでもない額を提示してくる。値段を適当なものに表すなら外車が買えてしまうくらいと言えばわかりやすいだろうか。このドレスとアクセサリーを合わせればそれ以上の金額になるかもしれないが、今の私にとっては十分すぎた。是非お願いしよう。




「ええ。お願いします」






「そりゃどーも!あんたにどんな事情があるか分かったもんじゃないがレディから身ぐるみ剥がすは申し訳ないしこれでもやるよ」




そう言って、商人がくれたのは質素な水色のワンピースだった。今の私に対してはありがたいばかりだ。




私は試着室を借りて着替えると、金貨と引き換えに豪華なものは全て手渡した。商人はウキウキで私とはその場限りの関係でお別れした。




これでスラムに行きやすくなった。復讐への第一歩をようやく踏み出せた。

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