SS プリクラ
時期は高校一年生の夏休み
三人はいつも以下のような感じで並んでいます
前
美彩 晴 蓮兎
後
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今日も今日とて二人と一緒に休日を謳歌する。行き先は相も変わらず近くの街だ。
あてもなくぶらぶらと三人で歩いていると、夜咲があるものを見つけて足を止めた。
「あれは何かしら」
疑問を口にしながら彼女が指差したのはゲーセンの店頭にあるプリクラ機だった。
「プリクラだな。写真を撮る機械だよ」
「やっぱりそうなのね。でも不思議だわ。どうして証明写真を撮る機械がこのような娯楽施設にあるのかしら」
「あはは。違うよ、美彩。これはそういうカッチリしたものじゃなくて、お遊び用のなんだよ」
「お遊び用……? それなら携帯で十分じゃないかしら」
「う、うーん。そう言われればそうなんだけどさー」
夜咲にプリクラの存在意義を説明しきれず困った表情をする日向。
日向は使ったことがあるからその良さを知っているのだろうが、彼女は咄嗟に説明を求められて対応できるタイプではない。
そのためここは俺が代わりに説明させてもらう。
「プリクラは色んな機能があってさ、女子には嬉しい美肌補正だったり、あとは撮影後の落書きなんてものもあるんだよ。……なんて、これらも今の携帯になら搭載されてるわけだけで、結局は思い出づくりかな。観光地でもなんでもない場所だけど、昔あそこでみんなで写真撮ったよねっていう思い出を作る機械。その時の写真も手元に残るわけだから、後から見返すことができるってわけだ」
俺なりのプリクラの良さというものを述べると、夜咲は顎に手を当てて少し逡巡した後、「そういうことね」と呟いた。
納得していただけたようでよかった。
やってやったぞと日向に勝利の報告を視線で送ってやる。すると、不安げに揺れる彼女の瞳と目が合った。
「瀬古、詳しいね。もしかして、誰かと撮ったことあるの?」
周りの喧騒にかき消されてしまいそうなほど小さな声をなんとか聞き取った俺は、少し恥じらいを覚えながら答える。
「小田たちと、一回だけな。小田が『我らの友情の絆を結晶化しようぞ!』って言い出してさ、野郎三人で周囲の視線を気にしながらボックスに駆け込んで、勢いで撮ったんだ。ほら、その時の写真がこれ」
財布の中にしまっていた小さな写真を二人に見せる。
夜咲は「へえ、こんな小さな写真がもらえるのね」とプリクラのサービスを更に理解したかのような感想を述べる。
そして日向は、男三人が映るその写真をじっと見て、どこか安心したかのような表情を浮かべ、
「なるほどね!」
といつもの元気な声を聞かせた。
「ねえ、瀬古くん。そういうことなら私たちもあれを使用するべきじゃないかしら」
「たしかに! 美彩の意見に賛成ー。三人で写真撮ろうよ!」
夜咲の提案に賛同する日向。
プリクラコーナーにはやや男子禁制の空気が漂っており、俺は少しだけ気が引けた。
だけど俺がああ説明してしまったために、ここでその提案を拒否することはできない。
それに、
そんなわけで俺たちは適当なプリクラ機を選び、早速撮影の準備に取り掛かる。
中学時代はよく部活仲間と撮っていたという日向に操作は任せ、友達コースを選び、背景フレーム等を設定すると機体からポーズを指示する声が流れ始めた。
『それじゃあまず、自由にポーズを取ってみよー!』
機械を通して聞こえる曇った声に応じて、俺と日向は適当にピースサインを作る。
「え……?」
咄嗟のことで対応することができず、夜咲は急いで隣にいる俺たちを真似ようとするが間に合わず、彼女がポーズをとりきる前にシャッター音が鳴ってしまう。
「……ポーズを取るなら先に言って欲しかったのだけれど」
少し拗ねたような声を出す夜咲に、日向は「ごめんごめん」と声をかける。いつもと逆の構図で珍しい光景だ。
「次の指示は無視してさ、改めて三人でピースしよ!」
その提案に頷き、『次は固めた拳を前に出して肘を曲げてみよー!』という妙に具体的な指示を無視して俺たちは同じポーズを取る。
「えへへ。三人お揃いだね」
「ふふ。えぇ、そうね」
今度は上手く撮れたことで二人は顔を見合わせ和やかに笑う。
『よーし! 次は可愛らしいポーズ! 両手の人差し指を両頬に突き差して!』
「美彩、こうだよ!」
瞬時に指示を理解した日向が手本を見せる。
「こ、こうかしら」
やはり機械の指示を上手く理解できていなかった夜咲は、日向の姿を真似てその通りのポーズを取る。
俺の隣にいる日向は向こうを向いており、その先にいる夜咲は日向の方を向いている。
そのため夜咲の正面は俺の方にも向いていることになり。
向き合ってしまったその姿はいつもの夜咲のイメージとギャップがあるもので、俺の胸に突き刺さるものがあった。
「あ」
そして俺はポーズを取り忘れたまま、三枚目の撮影が終わってしまった。
「……なにやってんの、瀬古」
「ご、ごめんごめん。次はちゃんとやるよ」
「……それならいいけど」
日向に注意されてしまったので、次こそはきちんとポーズを取るために機械の声に耳を傾ける。
『次が最後だよ! 締めはやっぱりこれ。みんな仲良くくっついちゃおー!』
「できるか!」
ついツッコミを入れてしまう。いやたしかに同性の友人となら構わないが、俺の隣には日向が、女子がいるんだぞ。
次はちゃんとやると言ってしまったが、こればかりは仕方がない。俺だけは別のポーズを取らせてもらおうと考えていると、俺の左腕と体の間に、細い腕が通ってきた。
「え!?」
腕に力を入れられ、隣にぐっと引き寄せられる。ふわっと花の香りがした。
「ちゃんと、するんでしょ」
俺と腕を組んでいる日向が、正面を向きながら言う。
その横顔は、陽が当たっているかのように真っ赤に染まっていた。
直後シャッター音が鳴り響き、最後の撮影が終わると、彼女は瞬時に向こうから離れていった。そして、反対側にいる夜咲とはまだ腕を組んだまま「次は外で落書きをするんだよ!」と言ってボックスの外に出ていく。
ボックス内に一人取り残された俺は、心臓の鼓動が落ち着くのを待ってから出た。
落書きは二人に任せ、出来上がった写真を三人で分け合う。
思えば今まで三人で写真を撮ることはなかった。初めは少し抵抗があったが、自分の言った通り、これはいい思い出になったなと手元の写真を見ながら思う。
「どう? 美彩。プリクラっていいでしょ」
「えぇ。携帯とは違った楽しさがあることはよく分かったわ」
「えへへ。そうなのそうなの。お金がかかっちゃうのが難点だけど、ついつい撮りたくなっちゃうんだよね。また次も撮ろうね!」
「そうね。また、機会があれば」
夜咲はふと手元に視線を落としたあと、
「今度は、瀬古くんが真ん中で撮ってみたいわ」
縋るような目で俺の方を見て、そう言った。
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