if 日向晴3
ドロドロした恋愛なんてなかった場合。平和な世界。
ただの息抜きです。本編とは関係ありません。
———————————————————————
今日の大学の講義を全て受け終え、速攻で帰路に就いた。
今日、晴は全休で俺の住んでるアパートの一室でゆっくりしているはずだ。講義中は彼女も自分の時間を過ごしているだろうが、終われば早く帰ってきてほしいと言われている。
可愛い彼女からのお願いだ。それを無碍にすることなんてできない。だから全ての誘いを断って帰るのだ。
家までの道中、町の店々がパンプキンやらお化けやらで装飾しているのが目についた。そういえば今日はハロウィンだっけ。
この時期はそれにちなんだ期間限定のスイーツが多くの店で販売されている。特に旬のものが使用されることが多く、その中には栗がある。
そして、晴はモンブランが好物だ。
目に留まったケーキ屋さんに立ち寄って購入する。見た目にハロウィン要素はないけど、美味しそうだからいいだろう。
小箱を手に持ち、バランスに気をつけながら帰宅する。
鍵を開け、自宅のドアを開けると——玄関に座り込んだ恋人の姿が見えた。
「おかえり! レン!」
今日は休日を謳歌しているはずの彼女、晴がとびきりの笑顔で出迎えてくれた。その姿はまるで尻尾をぶんぶん振り回しているかのよう……
「いや、生えてるな」
動いてはないけど、彼女のお尻あたりに尻尾らしきものが見える。
というか、頭にも二つ、耳らしきものがある。尻尾も耳もふさふさだ。
「生えてる? あ、これ?」
彼女はそう言って尻尾らしきものを掴み、軽く振り回してみせた。
「これ今穿いてるスカートに付いてるんだぁ。だからあたしから生えてるわけじゃないよ」
「それは冷静になれば分かるんだけど……何これどういう状況?」
「仮装だよ! せっかく今日ハロウィンだからさ、何かしたいなーって思いながら町中歩いてたらこれ見つけてね。一目惚れで買っちゃった。……似合ってない?」
「いや、すげえ可愛い」
「えへへ。よかったぁ」
心底安心したような表情を浮かべる彼女は、さっきから手に持っていた尻尾を勢いよく振り回す。どうやら晴犬の尻尾は手動らしい。
「あ!」
何かを思い出したかのように声を上げた晴は、尻尾を回す手を止め、いたずらじみた笑顔を浮かべてにじり寄ってきた。
「レン。トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうからね!」
ハロウィンのお決まりのセリフを言い放った晴はどこか期待しているような顔をしている。
「ちょうどよかった。はいこれ」
「……ふぇ?」
その期待に応えるため、俺は先ほど買って帰ってきたケーキの入った小箱を差し出した。
「中身モンブランだから。あとで食べよう」
「モンブラン!? やったぁ! 早速準備するね!」
俺から小箱を受け取った晴は尻尾を揺らしながらケーキを移す用の皿を準備し始めた。その後ろ姿を見て頬を緩ませた俺は、靴を脱いで洗面所へと向かう。
手洗いやらうがいやらを済ませ、晴とケーキの待つ洋室へと向かう。すると晴はケーキを前にしてウキウキを隠しきれておらず、格好も相まってまるで「待て」されている犬のようだった。
「レン! 早く食べよ!」
「うん」
手を合わせていただきますを言うと、晴は待ってましたとばかりの勢いでフォークを手に持ち、モンブランを一口。
「おいしー!」
幸せそうな笑顔を浮かべる彼女を眺めながら、俺もモンブランを口に運んでいく。うん、美味しい。
そのままフォークは止まることなく、俺たちはモンブランを一気に完食する。
「えへへ。ありがとね、レン!」
「どういたしまして。そういえば、もしケーキがなかったら何をしようとしてたんだ?」
「え? えっと……あはは。実は何も思いついてなかったんだよね」
「なんだそれ」
「い、一応考えたんだよ! レンにどんないたずらしてやろうかなって! ……でもさ」
フォークを皿の上に置いて言う。
「あたし……いたずらするより、レンにいたずらされたいなって。そういうことばっか考えちゃって……えへへ」
恥ずかしそうにはにかむ彼女。
「レン?」
犬はお腹を撫でてやると喜ぶと聞く。
じゃあ、目の前のわんこは?
「あ……」
———————————————————————
ハッピーハロウィン
全然更新できてなくて申し訳ありません。
久しぶりの更新がSSですみません。
犬要素薄くてごめんなさい。
2023/12/01にスニーカー文庫様から『好きな子の親友に密かに迫られている』というタイトルで本作の書籍版が発売されます。
たくさん書き下ろしたのでWeb版をお読みになられた方も楽しめるかと思います。
また、素敵なイラストがついているのでそれだけでも読む価値ありかもです。
お手に取っていただけると幸いです。
急に宣伝なんかして恐縮です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます