SS 日向と相合傘

美彩に秘密の関係がバレていない時期

一応、書籍版第2巻のSSという位置付け。でもWeb版としても問題ないと思います。

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 最近はよく雨が続く。今朝見た天気予報も終日の降水確率は90%を示していた。


 残りの10%がやってくることはなく、朝から降り続けている雨は放課後になってもその勢いが劣ることはなさそうで。


「うわぁ、ざーざー降りだね」


 地面に打ちつける大粒の雨を見て、隣で日向が傘を開きながら感想を口にする。


「こうも続くと少し気分も沈んでしまうものね」


 夜咲も同様に傘を開きながら、日向に同調する。


 雨の日が嬉しいという人は、なんとなく少数派だと思う。個人的にはこの独特の匂いが好きだったりするが、やっぱり濡れるのは嫌だし、傘を持ち歩くのは非常に面倒だ。


 俺も自前の傘を開いたところで、今日も三人並んで下校。傘に打ちつける雨音なんて気にせず、たわいもない話で盛り上がりながら歩き慣れた道を進む。


 そして、脇に公園の岐路で俺だけ二人と別れた。傘で少し見えない彼女たちの背中を見届け、俺は例の公園の中に入っていく。


 いつも腰掛けているベンチは濡れているため座ることができず、ベンチの近くでどこかに焦点を定めるわけでもなくぼーっと突っ立つ。


 たまに風が吹いたりして、雨の軌道に角度がつき、傘は無力となって制服が濡れてしまう。それでも俺はそこから動かず、ただただ彼女を待っていた。


 しばらくしてやって来た彼女……日向と合流して、雨の中、二人並んで歩いていく。


 雨の日でも、俺たちは放課後、あの子には内緒で二人きりになる。濡れてしまうからせめて日向は電車で帰ればと打診したが、彼女は決して首を縦に振らなかった。


 だからこうして今も一緒にいるのだが、俺たちの間には互いの傘が微かにぶつかる程度の距離があり、それはいつもより相手を遠く感じさせる。まるで傘が結界を張っている、そんな感覚さえ覚える。


 やっぱり厄介な存在だなと考えていると、


「うわっ」


 突風に襲われ、傘を持っていかれそうになる。咄嗟に短く持ち直したことで難を逃れ、一息ついたところで——俺の領域内に、日向が侵入してきた。


「……へ?」


 間の抜けた声が漏れ、隣を見やる。


 前をまっすぐ見つめる日向。その手には、先ほどまで彼女を雨粒から守っていたはずの傘が無惨な姿となって握られている。


「濡れちゃうから……このまま一緒に入っててもいい?」


 前を向いたまま彼女が聞いてくる。心なしか耳が赤くなっているような気がする。


 彼女の傘はもう使い物にならないことは明らかで、彼女のお願いを断る道理なんてなかった。


「あぁ」


 短く返事すると、日向はまた少し、俺のそばに寄ってきた。先ほどまで肌寒さを感じていたのに、体が熱を持ち始める。


 俺の持っている傘はそこそこ大きいが、それでも高校生男女2人がすっぽり入るわけはない。日向を濡らすわけにもいかないため、左手に持つ傘をそっと向こう側に寄せる。


「ねえ、瀬古」


 名前を呼ばれる。それだけで緊張してしまうのは、彼女との距離が近いからだろうか。


「……もっと、そっちに寄っていい?」


 正面とまでは言わないが、今度はこちらを少しだけ見て聞いてくる。


 彼女の上目遣いに対し、俺は静かに頷いて返した。


 さらに距離が近づく俺たち。もはや左腕に抱きつかれているような格好になってしまう。


「……えへへ」


 隣ではにかむように笑う声が聞こえたような気がしたが、頭上に大粒の雨が降ってきてその音はかき消された。


「途中でコンビニでも寄ろうか」

「いい」

「新しいの、俺が買うからさ」

「……い、いいっ。このまま帰ればいいじゃん」

「でもさぁ」

「……瀬古は、やだ?」

「……嫌じゃない」


 素直に答える。だけど彼女の方を見ることはできなくて、俺も視線を前に向けたまま。


「…………ねえ、瀬古。早くうち、いこ?」


 雨音はわずかに弱くなり、そして、左腕にかかる負荷は強くなった。

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