if 日向晴

ドロドロした恋愛なんてなかった場合。平和な世界。

ただの息抜きです。本編とは関係ありません。

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 ……寒い。


 寒波が到来しているなんて昨夜ニュースで見たけど、節電のために暖房をつけずに寝たせいだろうか。


 いや。でもたしかに俺は布団をかけて眠りについたはず。


 体をこすりながらゆっくりと瞼を開き、自分の体の上から布団が消えているのを確認する。


「……んぅ……すぅ」


 それと同時に、隣から可愛らしい寝息が聞こえた。


 俺の隣にいる彼女は、それはもうとても幸せそうに、ぬくぬくと布団に包まって寝ている。


「晴……お前だったのか……」


 この寒さの原因を知った俺はため息をつき、彼女の髪を軽く撫でてやる。すると頬が緩むのを見て、心はあたたかくなるのを感じる。


 体を起こし、近くに置いてある携帯を手に取り時間を確認すると、起床予定の一時間前を指していた。


 まだ寝る時間はあるけど、このままじゃ寝られないし、なんか目も冴えてきたので起きることにするか。


 多少諦めに近い感情でベッドから降りようとしたその時、誰かに腕を掴まれてしまった。いや、ここには俺以外もう一人しかいないのだが。


「レン……?」


 俺の腕を掴んだのは、目を薄く開けてこっちをみつめる晴だった。


「あ、起こしたか。悪い」

「どこ行くの……? もう起きなきゃだめ?」

「いや、あと一時間くらい寝てていいよ。俺は先に起きてるからさ」

「……やだ。レンも一緒に寝るの」


 もう片方の腕も伸ばし、両手で俺の腕を掴んでくる。


「……さむい」

「俺も寒くてさ、それで起きたんだよ。誰かさんが布団を占領したもんでね」

「……うぅ。寝てるときのあたしはあたしじゃないもん」

「じゃあ、あのかわいい寝顔は晴のものじゃないんだな」

「え……」

「残念だ。あんなにかわいい寝顔だったのに。晴とは違う人の寝顔だったなんて」

「……ごめんなさい。布団取って。だから、ね。かわいいって言って。お願い、レン」


 縋るような目で俺を見て、そんなことをお願いする晴。


 なんともいじらしくて、そしてなんともちょろい。


「かわいいよ、晴」

「……えへへ」


 緩みきった彼女の表情は、先ほど見たそれより幸せそうに思える。


「ねぇ、レン」


 布団を持ち上げ、スペースを作って彼女は言う。


「きて。一緒に寝よ?」


 そんな誘い方をされてしまえば、彼女に惚れている俺は断れないわけで。


 開かれた布団の懐に飛び込む。中は彼女の体温であたためられていた。


 すると彼女は布団を閉じたあと、俺の体にしがみつくように抱きついてくる。


「えへへ。あたたかいね」

「あぁ。俺が求めていたぬくもりがまさにここに」

「うぅ。謝ったのに」

「仕方ないだろ、本当に寒かったんだから」


 頬を膨らませて抗議する彼女の後頭部に手を回し、そのまま引き寄せて自分の胸に埋めさせる。


 彼女は抵抗することなくそれを受け入れ、俺の胸に顔をこすり付ける。


 彼女が俺の顔を見れないのを確認して、目を瞑りながら言う。


「朝起きて、このぬくもりがないとさ。なんか寂しいじゃん」

「レン……!」


 晴は弾んだ声を上げ、俺の体を強く抱きしめ、そして顔の動きを加速させる。少し胸にあたりが熱くなってきた。


 引き寄せるために置いていた手を動かし、彼女の頭を優しく撫でる。すると彼女の口から「んぅ」という声が漏れる。


「おやすみ、晴」


 今日は大学も休みなので、二人で出かける予定だ。


 行き先は彼女の希望でスポーツアクティビティに決まっており、体力を激しく消費することは確定している。


 そのため、なるべく寝ておいて体力を回復しておきたいところ。


 ぽかぽかした陽気にあてられたようなぬくもりに包まれ、まどろみ始める。


 このまま再び就寝すると思ったそのとき、俺の意識を覚醒させる出来事が自分に身に起きた。


 いや、起こされた。


 晴は顔の動きをさっきから止めている。だけど、俺の胸はずっとあたたかい。まるで、熱い吐息がずっとあてられているかのように。


「レン」


 囁いたその声は蕩けていた。寝起きだから、という理由をすぐに却下される。


 彼女は顔を俺の胸から離し、俺と顔を合わせる。その瞳には布団の中よりあつい熱がこもっている。


「だめだよ。そんなこと言ったら」


 晴の顔が近づく。


「そんな、嬉しいこと言ったら。あたし、レンが欲しくなっちゃう。もっと身体で感じたくなっちゃう」


 晴の顔との距離がゼロになり、開いたままの彼女の口とキスを交わす。


 先刻、あどけない表情で寝ていた彼女は、もしかしたら本当に彼女ではないのかもしれない。


 いま目の前で必死に俺のことを求めている彼女は、とても妖艶で、刺激的だ。


 先ほどから動かされていた彼女の手が止まり、俺の身に纏っている布を掴む。


「ねえ、レン」


 完全に覚醒してしまった彼女は、透明な糸を引く口を開いて囁く。


「しよ?」


 十分に寝たあとにスポーツする予定だったけど。


 結局、俺たちは疲れきって昼間を寝て過ごす羽目になったのだった。



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的なね

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