第111話

「えへへ……レンのここ、すごく元気になってる。待っててね。あたしが解消してあげるからね。レンはこれからあたしとだけするんだよ。あたしが満足させるから。美彩としようなんて思わないくらい、たっくさんしてあげるから。あたしの身体をレンの好きなようにして」


 晴はそんな魅惑的な言葉を口にし、上目遣いで俺の目を見つめてくる。その瞳には光が宿っていない。


 俺は彼女の目を真っ直ぐ見て言う。


「晴。俺の好きなようにしていいんだな」

「うん。レンがしたいことして。それでレンが喜んでくれたら、あたしも嬉しいから。それに、あたしはレンのだから」

「そっか。……じゃあベッド行こうか」


 俺がそう言うと、晴はこくこくっと頷き、俺の手を持って引っ張るようにしてベッドへ向かう。


 そして俺たちは同じベッドに潜り込み、並んで寝転ぶ。


 俺は仰向けになり、隣の晴からの視線を感じながら知らない天井を見つめる。


「レン。あたしが脱がした方がいい?」

「そうだなぁ……」


 答えを濁しながら寝返りを打って晴の方を向き、そのまま彼女を抱き寄せた。右手だけは彼女の頭に置き、そのまま撫でてやると、彼女の口から「んっ」という甘い声が漏れた。


「レン……それ、好き」

「それはよかった」

「でも、これじゃできないよ。一度離れて——」

「俺の好きなようにしていいんだろ。俺はこのままでいたい」

「え……それって、あたしとはもうしたくないってこと? 美彩としたから、あたしはもう用済みなの? やだ……やだやだやだやだ」


 晴の顔が青ざめていく。俺は安心させたくて、咄嗟に彼女を抱きしめる力を強める。


「落ち着いて、晴。俺の話を聞いて」

「やだ! 聞きたくない!」

「晴」

「結局あたしは二番目なんでしょ!? 一番の美彩としたから、もう、あたしとは……!」

「晴は二番目なんかじゃないよ」

「嘘!」

「嘘じゃない。本当。最低だと思うけど、俺は晴と美彩の二人が同じくらい好きなんだよ」

「……本当?」

「うん」

「……でも、美彩とは付けずにしたんでしょ。あたしとはいっつも付けてたのに! やっぱり美彩が本命で、あたしはただの代わりで……」

「信じてもらえないと思うけど、俺は晴を代わりだって思ったことはないよ」


 俺の言葉を聞いて、晴の動きが止まる。しばらくして、「え、え?」と困惑した声だけが返ってきた。


「あの関係を結んだのも相手が晴だったからだし、晴だからこんなに美彩との間で悩んでるんだ」

「……ほんと? あたし以外が誘ってもしてなかった?」

「してなかったよ。晴を可愛いって思って、晴に劣情を抱いてしまって、晴の身体に触れたいと思って。だからあの日、晴を襲ってしまったんだ。そしてその後も、晴に対して抱く欲望を晴自身にぶつけてた」

「……じゃあほんとに、あたしは美彩の代わりじゃないの? レンはずっとあたし自身を見てくれてたの?」

「うん。晴は晴だよ。……その格好も、俺が好きだからってフウのコスプレ衣装を着てくれた晴の気持ちに心動かされたし、晴に似合ってると思ったから可愛いって思ったんだ」

「……レン」


 今まで言えてなかった俺の心の内を話す。


 すると、晴の様子が落ち着きを見せ始めた。そして縋るように俺の体を抱き返してくる。


「……教えて。どうして美彩としたの」

「……えっと」

「美彩を庇ったりなんかしたらやだ。美彩と同じくらい、あたしのことも大事なんだよね。好きでいてくれてるんだよね。だったらお願い。レン。ほんとのことを教えて」


 瞳に涙を溜めて乞うように見つめてくる晴を見て、俺は「そうだな」と呟く。


 そして、美彩と体を重ねた経緯を正直に話した。今日と同じように別の場所に行くと思ってついて行ったらホテルの前だったこと。抵抗するも声を出すと言われてすんなり入ってしまったこと。部屋の中で例の噂に関する証拠を見せられたこと。


 そして、美彩がそれを使って俺を脅そうとしたこと。俺がそれを察知して、先に美彩に手を出したこと。何も準備していなかったし、美彩が薬を飲んでいると言うからそのまましてしまったこと。


 ことの成り行きを全て聞いた晴は、ぎゅっと俺の体を抱きしめる。


「……ほんとにしたんだね。美彩と」

「……うん」

「別に信じてなかったわけじゃないけど、レンから聞いたら、やっぱり辛いなぁ……」


 晴はそう言って、俺の胸に顔をぐりぐりと押し付けてくる。俺はそんな彼女にかける言葉が見当たらず、彼女の頭を撫でることしかできない。


「じゃあ、レンは美彩のためにしただけで、そういう気分になったわけじゃないの?」

「……それは、違う。最初はそんなつもりなかったけど、途中から自分を止められなくなってたから……うん」


 正直、あの時最後までやる気はなかった。


 ああいったことに耐性のない美彩なら、こっちが強めに出たら怯んで静止をかけてくると思ってた。だから途中でやめるか聞いたんだ。だけどその時の彼女の反応がいじらしくて、俺の胸を突き動かし、そのままことに至ってしまった。


 俺の返答を聞いて、晴はぎゅっと俺の体を抱きしめてしばらく考え込む。


 そして——


「なら、やっぱり管理しなきゃ」


 彼女がそう言って腕の力を緩めたかと思うと、するっと下の方に移動して俺の抱擁から一瞬で脱出した。


 起き上がった彼女は俺の腰に手を当て、体重をかけて俺の体を仰向けにしてくる。そしてそのまま俺の腰のところに座り込んだ。


「は、晴?」

「レンは悪くないよ。あたしがちゃんと管理してあげられてなかったからダメだったんだよね。大丈夫。これからちゃんとするから。もうレンは美彩としなくていいんだよ。あたしとだけすればいいんだよ。溜まるようなことがないように、ずっとあたしで解消して。そしたらもう美彩としようなんて思わないから。だから、だから、だから……んっ」


 いま、彼女の格好はフウが作中で着ているワンピースを身に纏っている。トルパニは主人公が操る風によってパンチラがよく発生する。その一因として、メタ的だが、ヒロインたちの丈の短いスカートなどがあるように思える。


 だから、いま俺の腰あたりに接地しているのは晴の下着だ。


 そんな状態で晴が俺の腰の上で動き始め、お互いの布越しとはいえ、そこそこの刺激が俺を襲う。


「レン……どうかな? ……そうだ……見て、レン。いま、この前レンに選んでもらったもう一つの下着着てるんだよ。似合ってる……?」


 彼女が短い丈のワンピースを摘んで持ち上げる。すると快活な彼女のイメージとは真逆の妖艶な黒が見えた。


 俺は言葉が出て来ず、ただただそれに目を釘付けにされながら生唾を飲む。


「レン、喜んでくれてる……嬉しい。あ……そうだ……レンを満足させないと……」


 晴は自身の位置をずらし、俺のズボンに手を伸ばす。


 俺はそれをぼーっと眺めていて、はっと我に返って彼女に声をかける。


「は、晴! ……俺はいま、したくないんだ。晴とも、美彩とも」

「……大丈夫だよ。レン。レンのしたくないことはしないから」


 そう言って、晴は小さな口を大きく開いた。




 * * * * *




 それからしばらくして、晴はサービスのペットボトルの水を飲んで言う。


「こっちはダメだもん……もしできちゃったら大変なんだよ……だからしちゃダメなんだよ……だから、だから、だから……えへへ」


 晴は俺の身体を優しくさすりながら言う。


「レン、お猿さんだもんね。これだけじゃ足りないよね。大丈夫だよ。あたしがぜんぶ解消してあげるからね」


 そしてまた、彼女はその可愛らしい口を開いた。

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