第79話
一旦家に帰り、制服から私服に着替える。美彩に私服で来て欲しいと指示されたからだ。
そして再び家を出る際に母さんに「今日は晩ご飯いらない」と伝えると、「今頃になって言うな!」と怒られてしまった。
どこに行くのか聞かれたので、素直に「夜咲とご飯に行ってくる」と伝えると、母さんは少し考えた後にお小遣いをくれた。一度断ったのだが、遠慮するなと言われて押し付けられてしまった。
そんなわけで、少しだけ懐が暖かくなった状態で駅へ向かう。駅に到着すると、彼女は既に来ていた。
「すまん、待たせた」
「大丈夫よ。私も今来たところ。……ふふ。このやり取り、いいわね」
楽しそうに笑う彼女に「そうだなぁ」と相槌を打つ。
「ご家族の用事ってのはもう済んだの?」
「……えぇ。先ほど済ませたわ」
「そっか。それで、どこ行くの? 詳しいことなんも聞かされてないんだけど。噂の件について話し合うんだよな?」
「……そうね。そのためにも、落ち着ける場所へ向かいましょう」
「あー、うん。そうだな」
こんなところで立って話すような内容ではない。どこか飲食店に入って、ご飯を食べながら話すのだろうか。
「それでは電車に乗りましょう」
「え、近場でもいいんじゃ」
「私はそれでも構わないのだけれど、おそらく少し離れたところに行った方がいいと思うの」
「んー……?」
この辺はうちの生徒も多くいるだろうし、彼らから注目を集めている俺たち的には少し遠くに行った方がいいということだろうか。
言い分は分かるが、俺たちは恋人同士ということになっているため、特におかしい組み合わせではないはずだが。
まあでも、変に視線を感じていたら集中して話もできないか。
「オッケー。移動するか」
「えぇ」
美彩は駅の改札に体を向け、自然な流れで俺の手を握った。そしてそのまま指を絡めてくる。
俺は驚いて彼女の顔を見たが、彼女は平然とした顔をして前を向いている。……いや、耳は少しだけ赤くなっている。本当は照れているのだと分かり、彼女を愛しく思う。
まぁ誰かに見られても大丈夫な関係ということになってるので、俺はその手を握り返し、美彩の隣を歩く。
そして六駅ほど電車に揺られて俺たちは降りた。あまり利用しない駅だ。遠出する際も通過するのみ、そんな感じの駅だ。
「なんかオススメのお店があったりするの?」
「……そうね。ついてきてほしいわ」
「俺はここらへん詳しくないから、そうさせて貰うよ」
美彩の案内に従って歩き続ける。駅から次第に離れて行き、飲食店が立ち並ぶ通りを抜けて行き、少し周りが静かになってきた。
どんな隠れ家的なお店に連れて行かれるんだろうと思っていると、美彩が不意に「ここよ」と言って足を止めた。
そこは、ラブホテルの前だった。
「え、え、え!? み、美彩。ここって」
「ほら、行きましょう蓮兎くん」
「いやいやいや。ここ飲食店じゃないじゃん!」
「飲食物も提供しているわよ」
「いや、たしかにそんな話聞いたことあるけどさ!」
「いいじゃない。私たちは恋人同士なのだし、それにここでなら落ち着いてお話しできるでしょ?」
「いや、道理は通ってるけど……」
「……ここで大きな声を出してもいいのよ? あなたに連れ込まれるって。周りに助けを求めるわよ」
「入りましょう今すぐ」
そんな最強の脅し文句が飛んできて、俺は彼女に従いホテルの中へと入っていく。
彼女が服装を私服に指定してきた理由に、今更になって気づく。彼女は最初からここにくるつもりだったのだ。
建物の中に入り、美彩が噂のパネルで選択した部屋へ向かう。
部屋の中は意外と綺麗だった。それにアメニティも豊富だ。下手なビジネスホテルより良いのでは。
美彩はポーチをソファに置いて、ベットへと腰掛ける。そして、
「蓮兎くん。こちらにいらっしゃい」
俺を手招きしてきたその姿はとても妖艶で、花の蜜に惹かれるように、俺の体は自然と彼女に近づいて行っていた。
「ふふ。良い子ね、蓮兎くん。そのまま私の隣に座ってくれるかしら」
彼女の言う通りに行動する。すると、彼女は体を傾けて、俺の肩に自身の頭を置いてきた。彼女の花のような匂いが鼻腔をくすぐる。
「ふふ。こうしていると本当に落ち着く。ずっとこうしていたいわ」
「……美彩。俺たちは話し合いをしにここに来たんだろ」
「えぇ、そうよ。その前に蓮兎くん。少し動画を見ない?」
「動画? いや、とにかく今は——」
「少し心を落ち着かせてからでないと、冷静に話し合いもできないでしょう?」
その言い分は一理あるが、そういう事態になったのはここに入ったからであって、ひいては美彩のせいだ。
そんなことは彼女も分かっているだろうに、スマフォを取り出して、本当に動画を流し始めた。
「これ、去年の紗季の誕生日会の時に撮った動画なの。ふふ、年相応のはしゃぎぶりでしょ?」
「可愛いな」
「……少し妬けちゃうわ。次は、そうね。私が小学生の時の発表会の動画よ。実は主役を演じたの。周りが勝手に決めたのだけれどね」
「この頃から美彩って感じがするな」
「……可愛いとは言ってくれないの?」
「すごく可愛いよ。この子は将来、美人さんになるだろうな」
「……ばか」
美彩は自分から言わせたくせに照れたようで、顔を俺の腕に押し付ける。それがまた可愛らしい。
しばらくすると照れが無くなってきたみたいで、顔の角度を元に戻して、再度スマフォを操作する。
「次は……これね」
次の動画を見た瞬間、俺は目を見開いた。そして美彩の顔を見るが、彼女はスマフォの画面をじっと見つめている。
「その次は動画ではないのだけれど……」
そう言って彼女がスマフォを操作すると、画面に日時と音声ファイルの形式で構成されたファイル名が表示され、音声が流れ始めた。周りがとても騒がしいが、複数人が会話する声がはっきりと聞こえてくる。
「これ……」
「蓮兎くん」
美彩は俺の方から顔を退かし、潤んだ瞳でこちらをまっすぐ見つめてくる。
「お願いがあるの。わた——んっ!?」
彼女の言葉を遮るようにして、俺は彼女の唇を奪った。そしてそのまま舌を口内へ侵入させ、彼女の舌と絡め合わせる。その度に彼女の身体はビクビクと跳ねる。
一度離れて、目を丸くしたまま荒い息をする彼女の口を再び塞ぐ。そのまま彼女の体を横に押し倒し、彼女の服の前ボタンを開けていく。一瞬驚いたような反応をされたが、口を塞がれているがために彼女は何も言えず、俺にされるがままになっている。
そして可愛らしい下着が見えたので、手を彼女の背中に回してフックを外し、ずらして彼女の柔らかいものを触る。瞬間、彼女の身体が今までより大きく跳ねた。
しばらくその柔らかさを楽しんだ後、そろそろ息が辛いかと思い口を離した。
「はぁ……はぁ……蓮兎くん……」
呼吸を荒くしている彼女を見て、俺の心は荒ぶる。
彼女の胸元にあった手を下に滑らせていく。そして彼女の太ももに触れた。
「い、いや……」
彼女は自分の顔を手で隠して、そんなことを言う。
「嫌だ? もうこの辺でやめとく?」
そう聞くと、彼女はゆっくりと手を外し、真っ赤な顔を見せて、
「……お願い、続けて……」
なんて返事をする。
瞬間、俺の中に初めての感情が生まれ、彼女の下を脱がした。スカートも、下着も。
そしてしばらく彼女の身体を弄った後、あることを思い出した。
「そういえば俺、アレ持ってないぞ」
今からする行為に必要な物がないことに気づく。だが、ここはそういうことをするための施設。たしかヘッドボードに……あった。
俺がそれに手を伸ばそうとすると、美彩に「待って」と言われた。
「そこに置かれているものは危険性があるから使わない方がいいわ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、今日はここまでで——」
「していいわよ」
「へ? いやでも、アレがないと流石に」
「私、飲んでるから。大丈夫よ」
「え、え? なんで……」
「いいから。もう私も我慢できないの。……お願い。きて」
どうして彼女がそう言った薬を飲んでいるのかという疑問は解消されていないが、理性が耐え切ることができず、俺はそのまま彼女と行為に及んだ。
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