第41話
目を覚ますと、目の前には本当に見知らぬ天井が広がっていた。周りを見渡すと真っ白だ。と言っても何もないわけではない。ただ置いてあるものが全て白いだけ。
「お。目を覚ましたなバカ息子」
聞き慣れた声。その声を聞くととても安心した。
「自分の息子にバカとはなんだ」
「晩春の川に飛び込んで、上半身裸で運ばれる息子をバカと形容して何が悪いの」
「めっちゃ恥ずかしいですごめんなさい」
俺が素直に謝罪を入れると、母さんはクスッと笑った。
「いつも通りね。病院の先生に伝えてくるわ」
「あ、うん。ありがとう」
「それと、あんたは二人に連絡入れときなさいよ。自分たちのせいだってだいぶ落ち込んでたんだから」
「そ、そんな。二人のせいなんかじゃ——」
「まぁ分かってるのならいいのよ。今回の件はあんたたち全員が悪いんだから」
そう言って、母さんは病室を出て行った。病院の先生に連絡を入れにいくのだろう。
母さんの「分かってるのならいい」という発言は、俺が今回病院に運ばれることとなった原因について、二人が自分自身に責任があると考えていることに対して言ったのだと少し遅れて理解した。母さんは二人を可愛がっているように思っていたので、意外と厳しい発言でビックリした。
そういえば二人に連絡をしとけと言われたんだった。サイドテーブルに自分のスマフォが置かれてあるのを発見し、開いてみる。おそらく母さんが充電してくれたのだろう。バッテリーはほとんど満タンだった。
まず驚いたのは、俺たちがカラオケに行った日から一日経っていたことだ。つまり俺はほぼ丸一日寝たっきりだったってことになる。そこから起床したっていうのに、母さんはあんな薄いリアクションだったのが解せない。
そして通知の量にも驚いた。
小田からは大量に俺の安否を心配するメッセージが送り付けられていた。あいつには世話になったなと思いつつ、トルパニのキャラのスタンプで「待たせたな」と送った。するとすぐに既読が付き、同様のスタンプで「心配したぞ」と送られてきた。このなんでもないやりとりが心をあたたかくさせる。
珍しい奴からも連絡が来ていた。甲斐田だ。小田曰く、どうやら俺がカラオケ店を去った後、夜咲が残ったクラスメイト達に軽く説教をしたらしい。それと甲斐田は俺の発言がやけに頭に残ったらしく、自分の行いを反省したらしい。どうか許してもらえないだろうかといった内容の文に対し、「それは日向が決めることだ」と送った。
そして、やはり美彩と晴からも連絡が来ていた。
美彩からは意外にも一時間間隔でメッセージが入っていた。普段はこんなに送ってこないのに。内容は「大丈夫?」「起きたら連絡をください」と言ったものばかりだが、それがバリエーション豊富に何通も来ている。それだけ心配してくれているということなのだろう。とりあえず、「今起きたよ」と返事をした。
晴の場合もこれまた意外で、一通しか連絡が来ていなかった。普段から連絡は取り合っていないが、晴はこういう時過剰に心配する方だと思っていたので驚きだった。その一通の内容も「待ってるから」とだけしか書かれていない。だけど「おはよう」と返事をするとすぐに既読がつき、メッセージが送られてきた。「大丈夫?」とこれまた短い。
それから晴と短い文のラリーをしていると、今度は美彩からも返事が来て、俺の指は起床後にも関わらず大忙しだった。
そうしていると母さんが戻ってきて、スマフォの文字入力に勤しんでいる俺を見て苦笑をこぼす。
「あんたが倒れた原因、自分で分かってるんでしょ?」
「あぁ。どうせいつものだろ」
「おそらくそうでしょうね。先生からは一応脳の検査もしてみようだってさ。するわよね」
「別にそこまでしなくても」
「しなさい」
「はい。……母さん、ごめん。せっかくの連休なのにこんなことに付き合わせて」
「いいのよ。それが親の役目ってもんなんだから」
「……ありがとう」
実はこうして気絶して、救急車に運ばれたの初めてではない。幼稚園児時代と小学生時代にそれぞれ一度ずつあったのだ。ただ、当時の記憶はかなり朧げで、何が原因で倒れたのかまでは覚えていない。
母さんや父さんには迷惑をかけているという自覚はしている。この体質を分かっていながら、管理することができなかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。
「そういえばあんた、倒れる直前に何か口にしていたみたいだけど、覚えてる?」
「え? 俺なんか言ってたの?」
「……覚えていないならいいわ。忘れなさい」
「なんだよそれ」
どうやら今回も何かを忘れてしまっているみたいだ。二人に聞いてみたら分かるだろうか。
……今後、俺と二人の関係はどうなっていくのだろうか。おそらく現状維持は難しくなっているだろう。
それもこれも、この恋とかいう毒のせいだ。
恋に落ちる瞬間を覚えている人はほとんどいない。そしてそれに気づいた時には、全身にそれが回っており、自由に身動きできなくなってしまう。体も、心も。全てが。
まさしく恋は遅効性のある毒だ。
俺の全身はそれに苛まれている。
————————————————————
【あとがき】
お目汚し失礼いたします。
本作『好きな子の親友が俺の性欲を管理している』(第1部)をお読みいただきありがとうございます。コメントやレビュー等も本当にありがとうございます。
どうやら皆さんの性癖を無事壊せているみたいで感無量です。皆で壊れましょう。私も壊れたんだからさ。死なばもろともですよ。
ちなみに、ここまでが序章です。
本作の表テーマですが「恋は遅効性のある毒」です。
恋は気づいたら落ちていて、その時にはもう手遅れなくらいにそれに溺れてしまっています。もう毒でしょっていう感じを作品の中で描いてみたつもりです。
そして裏テーマが「恋に落ちて壊れていく女の子達を描きたい」です。こっちが本当の動機。混じりっけのない本音です。
この三人の恋の行方は決めていません。多分勝手に動いてくれて決まると思います。
蓮兎ママが言ってますが、三人は絶妙なバランスで保たれていた関係です。
美彩は蓮兎を、蓮兎は晴を、そして実は晴は美彩を支えています。
なのでこの中でペアができてしまうと厄介なわけですね。だから蓮兎ママは「均衡を保ってほしい」と発言しました。
結局のところ現時点で蓮兎の一番の理解者って蓮兎ママなんです(母親信仰)。
美彩は積極的に行動するようになった蓮兎に救われています。紗季ちゃんの件もそうですね。ただ、その裏には彼の本来の性格である細やかな気配りがあるように思います。
晴は彼のその本来の性格に救われています。出かける際の格好に力を入れていることに気づいていたり、お化け屋敷の際にそばにいてくれたり、ですね。ただ、二人が仲良くなるきっかけとなった消しゴム忘れ事件は、彼が積極的に行動できるようになったからこそああいった結果になったわけで。
とても面倒な恋模様……ではなくハートフルなストーリーに仕上がったのではないでしょうか。まぁ推奨される恋愛ではないです。が、私は三人の恋を応援しています。
余談ですが、晴のひまわり好き設定はなんとなくで付けました。「活発少女に似合うのはひまわりやろ!」ってノリです。後々花言葉を調べたところ、「憧れ」や「情熱」があるみたいです。晴は美彩に「憧れ」を持っていますし、スポーツ少女らしい「情熱」も持っています。いいですね。他には「あなただけを見つめる」もあるみたいで、晴にピッタリだと思いました。あと大輪のひまわりには「偽りの愛」という意味があるみたいです。まるで蓮兎との歪んだ関係を指しているみたいですね。ここまでピッタリだと怖いです。
3点ほど謝罪を。
・晴が陸上を始めた時期を小学三年生から小学二年生に変更しました。
・タイトルが少し釣りっぽくなってしまってる件について。元々は『好きな子の親友と歪んだ関係を築いてしまって』みたいな感じでしたが、分かりにくいな〜って思って今のに変更しました。分かりやすくはなったけど、ちょっと後悔。
追記(22/12/20):
公式からの全体向けアナウンスを受け、ひとまず「性欲」の部分を伏せ字にしました。本文では変わらず「性欲」を使っていきます。
・時系列がバラバラで分かりにくくてすみません。構成上こうするしかありませんでした。一応簡単にまとめました。
中学3年生
|蓮兎、美彩に助けられる
|蓮兎、美彩への想いを自覚する
|美彩、蓮兎の姿を見て他人に期待を持ち始める
|晴、自分に自信を失くす
|晴、受験時に蓮兎に助けられる
高校1年生
〜春〜
|蓮兎、美彩に告白をして振られる。以降、ほぼ毎日愛を叫ぶ
|蓮兎、美彩、晴の仲良しグループができる
|晴、蓮兎への想いを自覚する
〜夏〜
|三人で夏を満喫する
|蓮兎、紗季に出会う
〜秋〜
|文化祭と体育祭
|美彩、紗季のサポートにより蓮兎への想いに気づき始める
|美彩、晴に自分の心境の変化を伝える
|晴、蓮兎と歪んだ関係を提案
|蓮兎、頭痛で学校を休む(未描写)
〜冬〜
|荒平、美彩に告白をして振られる
|晴、蓮兎とクリスマスイヴにデート(未描写)
|美彩、蓮兎とクリスマスにデート。想いを自覚する
高校2年生
〜春〜
|交流会と称した荒平の晴を狙ったカラオケ大会開催
|晴、蓮兎に自分の気持ちを伝える
|美彩、蓮兎と晴の関係を知る
|美彩、蓮兎にキスをする
|蓮兎、倒れる
以上です。
次話から第2部です。
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