第7話
高校生活初の11月に入った。
体育祭や文化祭といった学校行事が終わってしまい、修学旅行はまだ無い俺たち一年生にとっては、すでに楽しみのない学校生活となってしまった。
であれば学外に楽しみを見出せばいい。そしてそれはすぐに訪れる。
クリスマスだ!
サンタさんからプレゼントを貰う、家族と一緒に美味しいご飯やケーキを食べる。そんなクリスマスの過ごし方は既に終わった! 俺たちは花の高校生。クリスマスといえば恋人との時間! 俺はクリスマスまでに恋人を、夜咲を彼女にしてみせる!
「最近一気に寒くなってきたな。だけど夜咲の優しさが俺の体と心を温めてくれる。付き合ってくれ!」
「心が暖かい人の手は冷たいって言うわよね。あれって本当なのかしら」
はい今日も失敗と。
まあ意気込んだところで、告白は春から今日までほぼ毎日しているのに成功しないあたり、間に合ったりはしないんだろうな。
さて、こうして俺が告白をしていると日向が俺たちの間に割り込んでくるのが定番なのだが……あれ? なかなかやって来ない。教室中を見渡すが、彼女の姿が見当たらない。
「晴なら今日は休むって連絡があったわよ。あなたには来てないの?」
「えっ。来てないと思うけど」
夜咲に言われて自分のスマフォを取り出し、メッセージアプリを確認するがやはり日向からの連絡はない。そもそも日向と個人チャットすることは滅多にないが、三人のグループがあるため、そこに連絡が入っていたと思ったのだが。
「やっぱり来てないや。まぁ日向だし、俺には連絡して来ないか」
「二人は仲良いのにね」
「そうか? いつも言い合ってるイメージしかないけどな」
「……ううん、そんなことないわよ」
夜咲はどこか寂しそうな表情を浮かべる。その表情を見た俺は少し焦り、急いで話題を提供する。
「と、ところで、どうして日向は休んでるんだ?」
「風邪みたい。季節の変わり目だし、体調管理が難しいものね」
「バカは風邪ひかないって言うのにな」
「こら。そんなこと言ったらダメでしょ。……ふふ、怒っちゃった」
クスクスと笑う夜咲を見て、俺は心の中でほっとため息をつく。
授業中、日向のためにノート取っといた方がいいのかなあと考えたが、どうせ夜咲が取ってくれているだろうと思いやめた。俺には休む連絡入れてこなかったわけだし、ありがた迷惑だろう。
そんなことを考えていると、机の中に入れていた俺のスマフォの画面が光った。通知が来たのだろう。マナーモードにしているため音とバイブレーションはオフになっているが、画面だけは光るようになっている。
先生が板書を書き始めたのを見計らい、机の中から少しだけスマフォを出して通知を確認する。
えっ。日向?
つい声に出そうになったのをなんとか抑えた。それぐらい、彼女からの通知は衝撃があった。
珍しいな。そもそも夜咲にだけ休むって連絡入れておいて、今更俺にも連絡したってことか?
連絡の内容が気になった俺は、授業中にも関わらずメッセージアプリを開いた。そこには更に衝撃的なことが書かれてあった。
『お見舞いに来てほしい。手土産とかはいらないから。住所はこれ↓』
そんなメッセージと一緒に、日向の家の住所が届いていた。
これ以上スマフォを眺めていると流石に先生にバレそうなので、内容を確認し終えたところで机の中にしまい直し、視線を前に向ける。しかし、頭の中は先ほど読んだメッセージのことで埋め尽くされていた。
日向が俺にお見舞いをお願い? 学校を休むって連絡もなしに急にこれかよっていうツッコミどころもあるのだが、やっぱり俺にお願いすること自体に違和感を覚える。
授業が終わり、すぐさま夜咲のもとへ向かった。もちろん話題は日向のお見舞いの件だ。
「なあ夜咲。日向のお見舞いの件だけど——」
「えぇ。私も行こうと思ってたんだけど、移したら悪いから来ないでだって。私、晴のお家知らないから、諦めるしかないわね」
「えっ。……あ、あぁそうなのか。それなら仕方ないな」
日向は夜咲のお見舞いを断った。なのに俺には来いとわざわざメッセージを送ってきた。どういうことだ。
……あぁ分かった。俺には風邪を移してもいいと思っているんだな。あんにゃろ。食べやすいものとスポドリ持って殴り込みに行ってやる。
真相はいつも一つ。ばっちゃが言ってた。疑問が解消された俺は、放課後、いつも通り夜咲と別れた後駅に向かい、電車に乗って隣町へと向かった。そして駅前のコンビニであらかたの物を買い占め、商品の入ったレジ袋をぶら下げながら送られてきた住所に向かって歩いて行く。
「ここ、だよな」
地図アプリに住所を入力してピンが刺された場所に辿り着いた俺は、目の前の家の表札を確認する。うん、たしかに『日向』と書かれてある。
日向と言っても、クラスメイトの女子の家となると少し緊張する。深呼吸を一つして、目の前のインターホンを押す。するとしばらくして、『はい』と聞き慣れた声が聞こえた。
「あー、日向……晴のクラスメイトの瀬古です。お見舞いに来ました」
『……あたし。鍵開いてるから、そのまま中に入って』
声から日向だとは思っていたが、もしかしたらご家族かもしれないと思った俺は彼女を『晴』呼びにしたのだが、やはり本人だったみたいで変に恥ずかしい思いをしただけだった。
入ってきてと言われてもなぁと思いながら、恐る恐るドアを開ける。たしかに鍵はかかっておらず、すんなりとドアは開かれた。
「お邪魔しまーす」
様子を伺うように挨拶をする。しかし中は静まり返っており、返事はなかった。
え、どうすればいいのとそのまま玄関で立ち尽くしていると、ズボンのポケットの中のスマフォが震えた。日向からのメッセージだ。そのまま二階の自分の部屋まで来てほしい、だそうだ。
困惑しながらもこのまま帰るわけにも行かず、メッセージに従うことにする。靴を脱いで家に上がり、そのまま二階へと上がっていった。日向の部屋はどれだろうと思ったが、扉に『晴』と書かれたプレートが下げられていたのですぐに分かった。だけど一応確認としてドアをノックする。
「日向。俺だけど」
「いいよ。中に入って」
中から日向の声が聞こえた。やっぱり間違いないようで、俺は安堵しながらドアを開けた。
「いらっしゃい」
部屋の窓の隣に設置されてあるベッドに、布団に包まった状態で日向は座っていた。
「はいこれ、お見舞い品。適当に買ってきたから、嫌いなのあったらごめんな」
「……いいって言ったのに」
「流石に手ぶらでお見舞いには行けねぇだろー」
「……だってあたし、仮病だし。お見舞いになってないもん」
「……は?」
おいおい、じゃあなんで俺は呼んだんだよ。そう問い詰めようとしたその時、日向は立ち上がり、体を覆っていた布団を足元に落とした。すると、彼女の綺麗な柔肌が目の前に現れた。
「えっ、おま、どういうつもり」
「瀬古、夏にプール行った時、あたしの胸よく見てたでしょ? 好きなのかなって」
彼女はその時の水着姿になっていた。おいおいそんな格好しているから風邪なんか引くんだぞと思ったが、そういえばこいつ仮病とか言ってたなと思い出す。
頭が混乱してきた。思考が追いつかず、俺の体は硬直してしまう。そんな中、日向は俺のそばに近寄って来て、俺の手を取り——自身の胸に当てた。そして俺の手の甲に手を重ねて、揉む仕草を行う。俺の手のひらに温かくて柔らかい感触が襲ってくる。
「ひ、日向!? 一体これはどういうつもりで——」
「瀬古ってさ、結構すけべだよね」
「……へ?」
「瀬古の友達から聞いたよ。瀬古が愛読している漫画ってえっちなやつなんでしょ?」
「俺の友達……小田か! あ、あいつ、余計なことを教えやがって」
「それに、あたしの胸とか興味津々だし。ううん、たまに脚も見てるよね。脚も好きなの?」
「い、いやそんなことは」
「いいよ」
「へ?」
「瀬古の好きなようにしていいよ、あたしの身体。胸を揉みたいなら揉んでいいし、脚を触りたいなら触ってもいい。……その先も、していいから」
そう言って、日向は自分の手を下へ移動させる。その先が何を意味しているのかはすぐに分かった。
「な、なんで日向がこんなことするんだよ。わけがわかんねえよ」
「理由? 理由は簡単だよ。瀬古の性欲が爆発して、美彩が傷つかないようにだよ。だからあたしが代わりにあんたの相手をしてあげて、解消してあげるの」
「……なんだよそれ。俺が欲望に負けて、夜咲を襲いかねないってそう言いたいのかよ!」
「否定するの? でも、ほら」
日向は妖艶な目つきで俺を見つめながら、その小さな右手を動かして俺の下腹部を触る。さっきから膨れ上がってしまっている。
「好きでもない子に対してこうなっちゃってるのに、そんなこと信じられると思う?」
「そ、それはお前がこんなことするから——」
「だから、ね。しようよ。ううん、させてあげる。瀬古の中に溜まっていくその欲望、あたしで解消すればいいよ」
結局、俺は日向の言う通りだったのかもしれない。己の欲望に負けて、目の前の女の子を襲ってしまう獣だったのだ。
こうして、俺と日向の歪んだ関係は始まったのだった。
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