閑話 フェルナンド・クリスタリアの独白

 儂はフェルナンド・クリスタリア。

 この国の王であるカルロの父であり、数年前まで王をやっていた。今はただの隠居じじいじゃ。


 カルロのやつめ、毎回毎回簡単に儂を呼びつけおって……

 六日近くかけてわざわざ出向いたというのに、フエブラに滞在出来たのは僅か二日だぞ。老人をこき使うでない!

 それにつけても何とも忌々しいのは『ホルク』とか呼ばれとる、まるで悪魔の手先のようなあの鳥じゃ。何処に隠れようとすぐに儂を見つけおる。



 ホルクはクリスタリアの一部の奥まった山岳地帯にのみ生息している、わりかし大型の野鳥だ。

 大きさは大人の肘から指先までの長さと同じ位で、翼を広げればその三倍程になろうか。背面は美しい翡翠色、腹面は白色に細い波状の青碧の横帯がある。目は赤みを帯びたオレンジで、白い眉斑が特徴的な、まあ、美しい鳥ではある。

 ホルクが生息している地域では希少な鉱石が採れるのだが、どういう訳かこの鳥はこの石が相当にお気に入りのようで、採掘現場から石を盗み出しては巣に持ち帰る姿が度々目撃されていた。

 流石に石を餌にしているはずもないが、当然巣は石だらけ、ゴロゴロである。さぞ寝心地は悪かろう……。


 ホルクが好む石というのは『セクリタ』と呼ばれる魔鉱石の一つだ。

 魔鉱石と言っても、一般的に流通しているような人の魔力を元に火、風、氷、水、雷などの効果を付与して、それを別の形で利用するために造る魔鉱石とは全くの別物じゃ。

 魔力を注ぎ込むことで、セクリタはその者の魔力の “本質” を写しとる。とは言え、見た目には出来上がったセクリタは他人にとっては何の価値も無い只の石ころだな。



 息子のカルロがまだ学院を卒業する前、儂は親鳥が巣を離れた隙に卵を二つばかり失敬した。

 戻ってきた母鳥にちいとばかり突かれて痛い思いはしたが、可愛い息子が喜ぶ顔を見たかったからの。

 なんとか儂が城まで卵を持ち帰ると、カルロはその卵を孵化させ、見事雛を育て上げた。


 その過程で、カルロはこの鳥が例の魔鉱石セクリタに酷く執着することに気づいたそうじゃ。

 あまりにホルクがセクリタを欲しがるので、カルロは自分の魔力を込めた小さなセクリタのカケラを与えた。するとホルクはそれを咥えてずっとカルロの後をついてまわる。

 そのホルクの様子が妙に気になって仕方がなかったカルロは、今度はイズマエルから貰っていた彼の魔石のカケラセクリタで試してみた。ホルクは訓練場に居たイズマエルの所まであっという間に飛んでいった。

 驚いたカルロとイズマエルとで、その日登城していなかったフレドの魔石のカケラセクリタを渡してみると、なんとホルクはバルマー伯爵家へ向かって飛んでいったそうじゃ。慌てて二人が馬車でホルクを追いかけると、ホルクはカケラを咥えたまま悠然と屋敷の上を旋回していたと言う。


 つまりホルクは小さなセクリタのカケラから、そこに魔力を込めた人物を特定することが出来る。その上、その人物の居場所を探し出す事さえも可能なのだ。

 すっかりホルクに魅せられたカルロとイズマエルとフレドの三人は、その後本格的にホルクの繁殖を始めた。



 三人はその後も試行錯誤を続けた。

 ホルクの首輪に小箱を付け、向かわせたい相手のセクリタを収納出来るように工夫した。これでホルクはずっと小石を咥えながら空を飛び続ける必要が無くなった。ホルクが確実に目的の人の元へ飛べるようになると、ホルクの足に手紙用の小さな筒も取り付けた。

 そうして今では個人や地方領地間での連絡手段としてホルクが広く利用されることとなる。




 以前カルロは「魔力登録が必要だから」とかなんとか言って、儂にそれなりの大きさのセクリタを握らせてそれを魔鉱石化し細かいカケラにしておった。

 カルロのやつはそのカケラを使い『フェルナンド捜索部隊』として儂に対してホルクを飛ばし始めたのだ!

 ホルクが儂のところに来る度にカケラを粉々に踏み潰すんじゃが……残りはまだまだあやつの手元にあるじゃろう。

 いつかそのカケラを全て回収しようと思ってはいるんだが……。どこに隠しているか見当もつかんで困っておる。


 ふん。今に見ておれ。

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