5ー⑤
ー更に翌日
「というわけで、今日はさくらちゃんの家に来たよ!」
「「よろしくお願いしまーす!」」
「何が“というわけ”なんよ……」
さくらの家である春部邸はマンションの最上階。さくらが小学生の時、岡山から家庭の事情で埼玉に越してきたのだが、このマンションは彼女の祖母が所有する物件なのだ。
さくらは持っていた電子キーでエントランスのオートロックを開ける。
「久しぶりだなー、さくらちゃんちに来るの」
「唯ちゃんは入部前から先輩達と面識があるんだっけ?」
「うん。光ちゃん、志麻ちゃんとは小学生から、寅ちゃんとは中学生からだね」
「ウチが唯ちゃんとこのお店に行くようになったんは、水槽学部に入ってからやけん、出
世間話をしながらエレベーターに乗り込み、4人はさくらの住まう部屋を目指す。
「ここがウチの家よ。今は誰もおらんけぇ、遠慮せんで入って」
さくらに案内され、1年生3人は靴と「お邪魔します」の声を揃えて入ってゆく。
4LDKのマンションは、埼玉県のあまり栄えていない市とはいえ、相当な賃料がするであろう雰囲気である。
「そして、これがウチの部屋!」
さくらの部屋のドアが開け放たれるも……
「本がいっぱい!」
「って、水槽が無いじゃないの!?」
礼とコメットが言うとおり、さくらの部屋には水槽が無く、本棚には漫画、小説、その他活字、そしてアクアリウム関連書籍などの本がずらりと並ぶ。
「さくらちゃんのアクアリウムは部屋の外にあるんだよ」
「そ。こっちやけん、来てみんさい」
と、さくらと唯に続き、礼とコメットもベランダへと出る。
「わあっ」
「すっごい重ね……」
礼とコメットが目にしたのは、大量に整列した幅30センチ奥行及び高さ20センチほどの黒いプラスチック容器。
「これ全部、ウチとおばぁで殖やしとるメダカなんよ」
「さくらちゃんのお婆ちゃんは、界隈じゃ有名なメダカブリーダーなんだよ」
これまでも少し触れたが、改良メダカは2023年現在も熱狂的ファンの多いジャンルである。原種たるミナミメダカが日本産であるが故に、日本の水質や環境に適しており飼いやすく、熱帯魚と違い屋外で飼育出来て生体サイズも小さく場所を取らない、誰でも殖やせて品種も豊富と、日本で流行るべくして流行ったのがメダカ飼育である。
「おばぁが老後の趣味に何か始めとうなったって言うもんやけえ、ウチがメダカでも飼うたら?って勧めたら大ハマリしよってね」
唯とさくらの話を聞きながら、礼とコメットはプラ容器の中のメダカを見て回る。
「金魚もいいけど、メダカもいいものね。ワタシも始めてみようかしら」
「けど、こんなに沢山管理するのは大変そうだね」
白いものからオレンジ、黒、三色と様々な色彩のメダカ達を見て二人は言う。
「慣れだよ、慣れ!魚の世話そのものを楽しめてこそのアクアリウムさ。世話が増えるほど楽しみも増えるって考えたらいいじゃん!」
「唯ちゃんとさくらさんはほぼプロみたいなもんだけど、私はアクアリウムを初めて数ヶ月だよ……?」
「殖やさなきゃいいのよ……って言っても、メダカ飼育と繁殖はセットみたいなものよね」
「そうなんよ。それに、気付くと魚も水槽も増えとるんがアクアリウムの不思議なところやけん」
礼はアクアリウム沼にどっぷりと浸かってしまっている三人とは僅かばかりの距離を感じつつも、自身が爪先くらいは沼に足を浸け始めている事に気付き始めた。
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