5ー②

 翌日の放課後、礼、唯、コメットの3人は部室に寄り各々の管理する魚に餌を与え、状態を確認した後、光青の了承を得て校外へ出た。


「それにしても良かったね礼ちゃん。親御さんの許可もらえて」


「うん。小さい水槽なら良いって」


「何なら両親と弟クンもアクア沼に引き込んじゃいなさいよ」


「いや、そこまではしなくていいや……引き上げてくれる人がいないとダメだもん、沼って」


 談笑しながら3人が辿り着いたのはホームセンターだった。


─『ホームセンターあらし』


「さて、礼ちゃんの新しい水槽やらを選ぼうか!」


「 私、ホームセンターって殆ど来たことないけどアクアリウム用品なんて売ってるの?」


「“ホムセン”にはペットコーナーがあるから、犬猫から観賞魚まで、殆どの店では最低でも餌くらいは置いてるよ。この店は大きいし品揃えも豊富だから大抵のものはあるね」


「それにペット用品コーナー以外にも役に立つモノが揃ってるわ。ワタシがビオトープを作るのに使ったトロ舟やインパクトドライバーだって、ここで揃えたのよ」


 ありとあらゆる日用品を揃えるホームセンターは、唯とコメットの言う他に園芸用品などもアクアリウムに役立つものを取り扱っている。


「百聞は一見に如かずよ!入りましょ」


「コメちゃんって、見た目に似合わず諺とかよく知ってるよね」




 店内に入ると、唯とコメットに先導され、礼は店の奥へと向かう。


「ホームセンターのペットコーナーって、なぜか大抵奥の方にあるんだよね」


「そうなんだ。何でだろ?」


 犬猫の絵や写真が印刷されたパッケージのペットフードや猫砂、キャットタワーなどが見えてきた。


「着いたよ、ペットコーナー」


「アクアリウム用品は更に奥よ」


 どこのホームセンターも、大抵は犬猫のものが手前に多く置かれ、その次にウサギやハムスター・小島等の小動物、そして我らが観賞魚、次いでカメなど爬虫類、オマケ程度にカブトムシ等の虫……という順番で用品が陳列されている。


「あ、お魚そのものも売ってる!」


 礼が指差す方向には、壁際の棚にずらりと並べられた30cm水槽と、中に泳ぐ魚達であった。ネオンテトラの赤青模様は遠くからでもよく解る。


「専門店ほど多くはないにしても、生体を扱ってるホームセンターは珍しくないよ。それよりも先に水槽から見ようよ」


 唯に促され、 礼は空の水槽が並ぶ一角へ。


「水槽だけでも沢山あるわよ。同じ規格サイズでも色んなメーカーが出してるもの」


「ホントだぁ……同じサイズのガラス水槽なのに値段も違ったりするんだね。このメーカーのだけやけに高いよ」


「そのメーカーはまぁ、自社のブランドぢからみたいなのを押し出してるから……かな」


 水槽、フィルター、照明などアクアリウム用品を隈無く見てゆく礼。


「でも、いいの?唯ちゃんとこのお店で買わなくて」


「ん~~、そりゃうちの売り上げに貢献してもらえるのは有り難いけど、小さいショップとデカいホムセンじゃ、器具の品揃えの豊富さじゃ敵わないよ」


 唯は更に続ける。


「でも、生体の品数ならうちの店は負けないからさ。中に入れる魚はウチで買ってもらうと有り難いかな」


「ちゃっかりしてるわね、ユイは」


 器具や餌等をひと通り見た後、3人は水の入った水槽が並ぶ生体売り場へと進んでいた。


「ネオンテトラにプラティやアカヒレ、ドワーフグラミー……確かに種類はそんなに多くないね」


「金魚や改良メダカは売ってても、タナゴやドジョウはいないのね」


「基本的にホームセンターの生体コーナーは『ストックが楽』で『すぐ売れる』魚しか置いてないよ。店員さんは魚の世話以外に色んな業務をこなさないといけないからね」


 器具の殆どは販売するだけだが生体は生かしたまま陳列し、売るという技術が要求される。当然その技術は専門店の方が得意とするところだ。


「アヤ!ユイ!ハムスターがいるわ!」


「ほんとだ、可愛いね」


 金網ケージの中には群れて丸くなったジャンガリアンハムスター達が眠っていた。


「小動物はうちの店は専門外だな~…あとコレも」


 と、唯は鍵のかかったガラス張りディスプレイケースに入ったプラケースを指さした。


「コレ?……って、何コレ!?」


Lizardトカゲ……なのかしら!?」


 礼とコメットは得体の知れない生物に戸惑う。それは黄色がかった肌に所々茶色の模様が入った生き物。


「ヒョウモントカゲモドキっていうトカゲで、外国産のヤモリの仲間だよ」


「……トカゲなの?トカゲじゃないの?ヤモリって!?」


 唯の説明に脳の処理が追い付かない礼。


「あたしも詳しくないけど、トカゲっていう広いグループの中にヤモリっていう小さいグループがあって、ヤモリの中でまぶたがある仲間をトカゲモドキって言うんだってさ」


「で、結局コレは何なのよ?」


 トカゲである。


「説明するとややこしいから爬虫類愛好家はレオパードゲッコー、略してレオパって呼んでるよ」


「Leopard Gecko……豹のヤモリって言う割にはヒョウっぽさが無いわね。東京バナナみたいな模様してるわ」


「メダカや金魚みたいに品種改良で色んな模様になったけど元はヒョウ柄だったらしいよ」


「よく見ると可愛い顔してるね、この子」


「レオパは爬虫類の中ではかなり飼育が楽だって聞くなぁ。でも餌は基本的に生きた虫らしいよ」


「それはちょっと私にはハードルが高いかな……」


「アロワナなんかの餌に生きたコオロギやミルワームって虫を使う人もいるけど、餌を生かしたまま買い続けないといけないんだって」


「もう何を飼ってるか解んないわねソレ」


 礼達はレオパのケースから離れる。小動物や爬虫類の飼育が昔よりも普及した現在、ホームセンターのペットコーナーでもレオパ程度の爬虫類ならば売られる機会も増えた。


「レオパやリクガメにオカヤドカリ……色んな生き物が売ってるわね」


「水を張って魚を飼うばかりが水槽の楽しみ方じゃないって事かもね」


「水を張らないのはテラリウムとかパルダリウムとか言うんだっけ?」


「うん。爬虫類や虫なんかを飼う水が殆ど無いのがテラリウム、水場と陸地が両方あるのがアクアテラリウム、カエルなんかを飼う水が殆ど無いけど湿ったのがパルダリウム、くらいの認識でいいよ」


「テラリウムやパルダリウムかぁ。選択肢が増えちゃうとますますどんな水槽を置くか迷っちゃうな……」


「日淡にしなさいよアヤ。冬もヒーター要らないわよ?」


「まぁまぁ。礼ちゃんの水槽なんだから、本人にじっくり決めさせようよ」


 悩んでいた礼は、くるりと唯の方へ顔を向けた。


「ねえ唯ちゃん、今から唯ちゃんの家に行っていい?」


「いいけど、水槽買う前から魚を選ぶの?」


「お店じゃなくて、唯ちゃんの部屋!どんな水槽でどんな魚を飼ってるか、見せて!!」


「ええっ!?」


「アヤったら大胆ね!」


「そして明後日はコメちゃん家ね!」


「ワタシの部屋も!?」


 そんなこんなで3人は唯の家たる遠藤観魚店へと向かった。

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