4ー⑩

「あのお兄さん、カッコ良かったけど怖かったね……」


「でも水槽学部の名前を聞いてあんなに怒るなんて……光ちゃんと何かあったのかな?」


 礼と唯は話しながら部員たちの元へと戻る。


「アヤ!ユイ!見て見て!ジュズカケハゼがいたわ!!」


 戻ってきた礼を見るなり、捕まえた魚を見せびらかすコメット。


「おー、いいの捕まえたじゃん!」


「はいコメちゃん、メダカと変な虫を捕まえたからあげるね」


「ありがとうアヤ。でも変な虫はいらないわ」


「その虫、タイコウチって言って結構珍しいやつだぞ」


 と、寅之介。タイコウチはミズカマキリとタガメを合わせたような水生昆虫だ。


「さて、魚や水草の調査もコメットくんが飼う魚の捕獲も済んだし、そろそろお昼にして、食べ終わったら帰ろうか」


「昼飯って、もしかして捕まえた魚を食うんじゃないだろうな!?」


 光青に問うたのは加藤。


「そんなわけないじゃないですか。 淡水魚は泥抜きしないと臭くて食えたもんじゃないですから」


「私と部長でお弁当を作って来ました」


 いつの間にか重箱を持っていた志麻。


「さすが志麻さん、 女子ぢから高~い!」


 レジャーシートを敷き、準備するさくら。


「部長さんも男子で料理が出来るなんて、カッコイイですね」


 礼の言葉にもっと言ってくれと言わんばかりの笑顔を見せる光青。


「カッコイイ男といえば、さっきカッコイイお兄さんとモヒカンとスキンヘッドの3人組がワニガメを捕まえてて……」


「……情報量が多いわね」


 志麻が突っ込みつつ光青は唯の話に耳を傾けながる。


「……モヒカンとスキンヘッドとイケメンがワニガメを……?」


「リーゼントのお兄さん、水槽学部の名前を聞いた途端に怒り出しちゃって……」


「……唯、礼くん、君たちもしやアキラと兄弟に会ったのかい?」


 笑顔だった光書の表情は一転して険しくなった。


「部長さん、あの人たちと知り合いなんですか?」


「アキラちゃん達は、元生物部員……うちが水槽学部になった時に辞めていったのよ」


「やめたまえ志麻くん。食事の時にする話じゃあない!君たちも忘れるんだ。いいね?」


 普段から飄々としている光青とはまるで別人のような雰囲気から、触れてはならぬ話題であることを悟り、礼と唯は追及をやめた。自分たちが入る前の水槽学部には何かがあった。今解るのはそれだけであり、今後も何かがあるかもしれないという事だった。

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