4ー⑦
「こんな事もあろうかと、予備のヘルメットを持ってきておいた!誰か一人、寅の後ろに乗りたまえ!彼は自動二輪免許取得から1年以上経ってるので2ケツが可能だ!」
「じゃあウチ、乗りたいわ!」
光青の提案に名乗り出たのはさくらだった。予備のヘルメットを受け取り、エストレヤのタンデムシートに跨がる。
「寅ちゃん、このバイクで今まで二人乗りした事はあるん?」
「いや、今日が初めて」
「なら、ウチが寅ちゃんのケツの初めてを貰う事になるんね……!?」
「変な言い方するな!……スピードは出さねえから安心しろ」
「はーい」
寅之介はエストレヤのサイドスタンドを左足で上げると、エンジンを始動させる。
「サク、片手は車体のどっかを、もう片方の手で俺のベルトか肩を掴め」
タンデム走行時、同乗者が運転者に密着するとバランスが崩れ事故を起こす危険性があるからだ。
「じゃあ、僕と寅が先導するんで、先生は着いてきてください」
「おう。安全運転でなー」
光青のカブが始めに発進し、寅之介のエストレヤが続く。寅之介がギアをローから2速ヘチェンジし加速する。そこで、段差に乗り上げ車体が少し揺れた。
「きゃっ!?」
驚いたさくらは、思わず寅之介に抱きついた。車体以上に揺れるものを押しつけられ、寅之介は思わず叫ぶ。
「くっつくなって!!!」
「しゃーないやないの!怖いんやけん!!」
健全な男児としては嬉しい感触も、運転への意識が削がれてしまえば致命的な事故に繋がるのだ。
「寅之介の奴、青春してんなー」
「……大丈夫かしら、あの子達?」
ソリオの運転席から加藤、 助手席から志満が言う。
バイクと車は部員達を乗せ、目的地の川に辿り着いた。
「あー楽しかったー!寅ちゃん、 また乗せてね」
バイクのスピードに慣れて以降、さくらはジェットコースター感覚ではしゃいでいた。
「……寅、大丈夫か?」
さくらとは対照的に疲れた顔の寅之介を案じて光青は声を掛けた。
「サクのやつ、何てモンを持ってやがる……背中に当たらねえ唯か礼か志麻姐さんを乗せるべきだったぜ」
「お前、志麻くんにだけは間違ってもそれを言うなよ?別な死に方するぞ」
と、そこへコメットが駆け寄ってきた。
「ねえねえ寅サン、帰りはワタシをモーターサイクルの後ろに乗せてよ!」
へたり込んでいた寅之介の目線の高さはコメットの胸の辺りだった。視界に入ってきた物体を見ながら答える。
「……ダメ」
「何でよ!?」
その様子を後目に光青は口を開く。
「それじゃあ気を取り直して翠涼学園水槽学部、フィールド調査開始だ!」
「おーっ!!!!!!」
葦の生い茂る川に、部員たちの声が響いた。
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