4ー⑥

─翌日、翠涼学固敷地内


礼、コメット、唯の一年生3人は集合時間より少し早く集まっていた。


「それでね、私も自分の部屋に水槽を置きたいなーって……」


「置けばいいじゃない」


「礼ちゃんとこは親御さんがアクアリストじゃないんだから、先に親の説得からだよ」


 世間話をしていたところに、志麻とさくらが到着した。女子部員達はみな私服だが、「泥まみれになってもいいくらい汚れていい、且つ水に落ちても助かる様に動きやすい服装を』と、指示されていたため、露出も女子力も少ない学校指定ジャージ姿だった。


「まだ4月とはいえ、もう春やけん歩いてきたら暑うなってきたわぁ」


 と、言ってジャージのジッパーを下げるさくら。 ジャージの拘束から解放された双丘はTシャツ越しに自己主張をするかの如く跳ね、礼は思わずそれを目で追った。


「そっか、まだ川じゃないんだし真面目に上までなくていいのよね!?」


 言うなりコメットはジッパーを下ろすどころか、ジャージの上を脱ぐ。礼と初遭遇の時に着ていたピンク色のタンクトップ姿。あの時は見ず知らずの外人だと思っていたため口には出さなかったが、


「デカっ……」


 身長は礼や唯とは変わらないのに、部分的に圧倒的な差があるではないか。


「さくらサン、このジャージって胸の辺りがキツくないかしら」


「そうなんよ。 1サイズ上のやつ買った方がええんやろかねぇ」


 その会話を虚ろな表情で聞く礼、唯、志麻。彼女らはジャージの胸部分がきついと感じた事など一度も無かった。


 すると、そこへ1台の青い自動車が走行してきた。スズキ・ソリオ。少し四角い形をした小さめの普通乗用車である。


「オッス!オマエら揃ってるか~?って何だ春部と東錦のそのけしからんボディは!?男子が来る前に早く隠せ!!」


 ソリオの運転席から顔を現した加藤は歯に衣着せぬ言い方で促す。


「センセイ、その言い方は同性でもセクハラよ!!」


「そうよねぇ、志麻さん?」


「私たちはけしからんボディをしてないからワカラナイワ」


「ソウデスネー」


 無表情で言う志麻と礼。唯は無言でコメットのジッパーを無理矢理引き上げる。


「痛っ!!何すんのよユイ!ってか顔も怖いわよ!?」


 そんなこんなの最中、アクセルと排気音を轟かせ、2台の自動二輪車が走行してくる様子が見えた。1台は黄色いホンダ・クロスカブ。ジェット型ヘルメットから見える顔は光青のものだった。もう1台はオレンジ色のカワサキ・エストレヤ。顔はフルフェイスヘルメットで隠れているが、背格好から寅之介だとすぐに解った。


「みんな、揃ってるかな?」


 ヘルメットのバイザーを上げる光青と寅之介。

「遅ぇぞバイク組。もうちょっと早く来てたらいいモン見れたのになぁ」


「何言ってんだ姉ちゃん?」


 光青と寅之介がバイクのサイドスタンドを立て、全員集合した事を確認すると、礼がある問題点に気付いた。


「先生の車って、運転する先生含めて5人乗りですよね?」


「ああ、それがどうかし……あっ!」


 加藤も他の部員達も気付いた。バイクの光青と寅之介を除いた部員は志麻、さくら、礼、唯、コメットの5人。対して加藤のソリオは定員まであと4人。


「……一人余るじゃない。去年までは気にしなかったから盲点だったわ」


「さくらちゃんかコメっちはトランク!巨乳のペナルティだよ!!」


「何でそんな罰を受けなきゃなんないのよ!!」


「二人とも落ち着きんさい!」


言い争う唯とコメット、宥めるさくらを後目に光青はカブのコンテナから何かを取り出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る