4ー③


「あと、コレもあげるから良かったら使って」


 志麻が取り出したのは、丸くて茶色い里芋を小さくした様な物体。


「球根じゃん!タイニムファ?」


「さすがの唯でも、この状態じゃ解らなかったみたいね。タイガーロータスよ」


「タイガーロータス?虎の……なんですか?」


「Lotus……ってことははすね!?」


 コメットはタイガーロータスの球根を受け取り、まじまじと見つめる。


「ハスというかスイレンね。アフリカの熱帯スイレンよ」


 睡蓮 (スイレン)は、泥や土の中から浮葉と呼ばれる葉を伸ばし、水面に葉を浮かべ、更にハスに似た花を水上で咲かせる植物である。水生植物に興味が無い者でも、その姿を見たことは一度くらいはあるはずだ。


「熱帯スイレンの仲間は水草水槽でもレイアウトに使われるんだけど、浮葉が開くと光を遮ってしまうから、浮葉の茎が伸びた時点でトリミングしちゃうことが殆どなの。だからビオトープなら浮葉が開いても問題ないし、花を咲かせて楽しめるんじゃないかしら」


「アリガトウ、志麻サン!絶対に綺麗な花を咲かせてみせるわ!」


 こうして植物の植栽が終わったコメットのビオトープに水が注がれた。


「魚は入れないの?」


「入れたいけど手に入らないのよ。ユイの店には改良メダカとフナとドジョウしかいないもの!」


「いないモンはしょうがないじゃん」


 コメットが部室に水槽ではなくビオトープをセットしたのは、彼女の飼いたい魚が日淡であるが故。 日本の気候に適した魚を自然に近い形で飼育出来るのはビオトープの魅力の一つだ。


「売ってねえなら、捕まえりゃあいいだろ」


「寅サン!」


 ベランダに半身を出して現れたのは寅之介。


「そっかぁ。日本の淡水魚なんて、その辺の池や川にだって泳いでるんだから獲ってくればいいんだ よ!!」


 唯は寅之介の提言を盲点だったと言わんばかりに補足する。


「魚を……」


「捕まえる……?」


 男児や田舎の子供ならば、網と虫カゴやバケツを持って野生の小さな生き物を捕まえて飼った経験のある者は多い。だが礼は東京都練馬区、コメットは英国ブリストルという街で幼少期を過ごしたシティガールである。野生の魚を捕まえて飼うといった発想は無いのだった。


「キミたち!話は聞かせてもらったぞ!みんな、中に入りたまえ!!」


 光青は室内からベランダまで聞こえる声で呼びかける。 部員たちはその声に従い、室内に入り、着席した。

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