3ー⑧
「日淡というのはね、日本淡水魚の略よ。つまり、日本の川や湖、池に元から生息してるドジョウだとかタナゴなんかの魚を総じて日淡って呼ぶの」
コメットは礼に日淡特集のアクアライヴズを閲覧させながら説明する。彼女の瑠璃色の瞳は楽しげに輝いていた。
「モツゴにタモロコ、オヤニラミにギバチ……日本にもこんなに沢山のお魚がいたんだね。知らなかっ たよ」
「アカメやビワコオオナマズなんかは怪魚マニアの間でも人気だぞ」
「熱帯魚、海水魚、金魚、錦鯉に次ぐジャンル分けの一つでもあるからね。日淡は。 マイ ナージャンル故にコアなファンもいるんだよ」
礼と寅之介に続き、唯が言った後でコメットは驚いた表情を見せた。
「What!?日本じゃマイナーなの?日淡って!!」
「うん。そして君はコアなファンだよ」
「Holy sit!何でこんなに素晴らしい魚達が自分の国にいるのに、日本人はその魅力に気付かないのよ!」
外国人特有のオーバーな身振りをするコメット。
「身近だからじゃないかな?外国の魚に比べて物珍しさが無いというか」
「あと地味だ。ほぼ灰色の魚ばかりだろ」
「ハッキリ言うじゃない!?っていうか地味なのが良いんじゃないの!!」
「金魚や錦鯉は日淡とは違うの?」
礼がコメットに問う。
「金魚の起源は中国だし、錦鯉の元になった鯉の原種も大陸産だっていうのが何年か前の研究で明らかになったわ。それに改良品種は自然界のどこにもいないんだから外来種よ。日淡はあくまで日本在来の淡水魚よ」
「最近はメダカも金魚や錦鯉みたいなジャンルとして確立しつつあるな」
「メダカこそ日本の淡水魚じゃないんですか!?」
「原種のメダカは日淡だけど、白やオレンジや真っ黒みたいなのは改良品種だから金魚みたいなものよ」
改良メダカは、ここ何年かで専門店も出来るほどの爆発的ブームとなっている(2022年現在)。メダカというのが元々身近な存在であり、飼育のしやすさや魚そのものが小さくスペースを取らない事などが大きな理由だろう。
「うちも最近はメダカに力を入れてるぜ。子供から年寄りまで買いに来る人が多いからな」
と、雷蔵。もはや日本のアクアショップで取り扱っていない店の方が少ないのではないだろうか。
「メダカ以外の日淡の魅力にも日本人は気付くべきよ!というわけで店長サン、この店はもっとタナゴとかカワムツとかもたくさん置いて頂戴」
「お嬢ちゃん、君が日淡を愛する気持ちも解るが、俺の店は初心者からマニアまで幅広く楽しめるのがモットーなんだ。だからあんまりコアな魚ばかりを置くわけにはいかねえのさ。すまねえな」
「お父さん……かっこいいよ」
「おやっさん、男だな」
己の信条を貫く姿勢の雷蔵に、尊敬の眼差しを向ける娘と弟子だった。
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