3ー⑤
礼と唯が次に訪れたエリアにはグッピー、プラティ、モーリーといった魚たちが集中し ている。これらを纏めて『卵胎生メダカ』と呼ぶのだが……
「日本のメダカとは全くの別種なんだよ。哺乳類で言えば人と犬くらい分類が離れてるの。 こういう風に分類が違うのに生と形が似てる事を収斂進化といってね……」
「へーぇ」
と、蘊蓄を語る唯に対して相槌を打つ礼。 かつて、グッピーらが含まれるカダヤシ科は日本のミナミメダカや東南アジアのオリジアス等メダカ科と合わせてメダカ目に分類されていたが、分類の見直しによりメダカ科はダツ目に移ったため、残されたカダヤシ科のみでカダヤシ目を形成する事となる。また、カダヤシ科の多く─グッピーやプラティ、ヨツメウオ等が卵胎生なのに対しノソブランキウスやランプアイ等アフリカに生息する種は卵生なので卵生メダカと呼ばれる。メダカの仲間ではないのにメダカと呼ばれるため非常にややこしい話である。
「あ、いた!グッピー!……って、こっちもそっちもグッピー!?」
「グッピーってのは、ヒレの形や色なんかの違いでかなりの品種がいるんだよ」
「ひんしゅ?」
「同じ生き物だけど、人の手で繁殖させてくうちに色や形のバリエーションが増えてって、それを固定したもの。金魚で言うと鮒みたいな形の和金と出目金やランチュウみたいなバリエーション違いのこと。礼ちゃんが飼ってるアカヒレ達だって、3匹とも品種が違うだけでみんな同じアカヒレなんだよ」
これを、品種改良と呼ぶ。
「金魚は形が沢山あるのに、グッピーは同じような形ばかりだね」
犬と猫みたいなもんかな。犬はチワワやドーベルマンみたいに形が違うけど、猫は毛の色や長さ、耳の形、足や尻尾の長さ以外ほぼ同じ形でしょ?」
「不思議だね、品種改良って」
「猫は品種によって性格の違いとかあるけど、グッピーはどれを選んでも基本的にグッピーだから好みで選んだらいいよ」
礼はグッピーが品種ごとに分けられた水槽を見て回る。ブルーグラス、キングコブラ、モザイク、RRE (リアルレッドアイ) 等々、様々な品種が泳いでいるではないか。
「グッピー以外の胎生メダカはプラティやブラックモーリーなんかもオススメだよ。ソードテールは気が荒いしハイランドカープは少しデリケートで……どした?礼ちゃん」
「これもグッピーなの?」
礼は一つの水槽を指さした。その中に泳ぐ魚は、胴体こそグッピーだが、他のグッピー達とは大きく異なる所があった。大きくヒラヒラと派手なヒレを持つのが雄グッピーの特徴だが、その魚の尾は雌雄で差がない形をしており、雄は雌よりカラフルだが実にシャープなスタイルだ。
「ああ、それはエンドラーズ。グッピーの原種ともグッピーと近縁の魚とも言われてるちょっと謎の魚だよ」
エンドラーズ・ライブベアラーは唯の言うとおり謎多き魚である。グッピーとは近縁別種の魚とはされているものの、ベネズエラで採取された個体からグッピーが生まれた例もあるなど、分類が定まっていない。
「まあラミレジィも昔はアピストに分類されてたし、ブロキスもコリドラスの仲間に分類されたし、魚の世界ではよくある事だね」
「その辺はまだよく解らないけど、私はこの子たちが気に入ったから、エンドラーズを飼うよ!」
「いいんじゃない?その一期一会な直感は、アクアリストになった証だよ」
良くて一目惚れ、悪くて衝動買い……アクアリストの習性の一つを礼は早くも発動させたのだった。
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