3ー②

─遠藤観魚店


 店内に入り、まず目に付いたのは、綺麗にレイアウトされた水草水槽だった。90センチ規格水槽いっぱいに、様々な水草が生い茂る森の中を小さな魚達が妖精が舞うように泳ぎ回る。


「わー綺麗!まるで志麻さんの水槽みたい」


 そう、思わず声に出していた礼は、流木に活着したアヌビアス・バルテリーの葉の上でせわしなく動くオトシンクルスを目で追っていた。


「鋭いねえ、お嬢ちゃん!その水槽をレイアウトしたのは志麻ちゃん本人だぜ!」


 野太い声のした方を振り返ってみれば、大柄で髭面の男が立っていた。店のロゴが入ったTシャツに、ソムリエタイプのエプロン身に付けた中年男性。彼こそがこの店の主であり、


「お父さん!」


 唯の父。名を遠藤雷蔵えんどう らいぞう


「お嬢ちゃんが唯の言ってたアヤちゃんかい?唯がが同級生の友達を連れて来るなんて、珍しい事もえるもんだ!」


「は、はじめまして。赤比礼です。唯ちゃんには学校でも部活でもお世話になってます」


 頭を下げる礼。彼女が礼という字を名付けられたのは、両親から礼儀正しい子であって欲しいと望まれたからであり、その名に恥じぬよう育てられた事による。


「部活かぁ。光青の作った部にゃ、志麻ちゃんしかマトモな子がいなかったが、礼ちゃんみてえなしっかりした子が入ってくれたなら安心だな!」


「部長さん達のこと、ご存じなんですか?」


「おうよ、あいつらもここの常連だからな。礼ちゃんもお得意様になってくれりゃサービスしとくぜ!」


 豪快に笑う雷蔵。 そして、その後一言ぽつりと加える。


「礼ちゃん、唯と仲良くしてやってくれな。コイツはアクア馬鹿だが仲間思いで…「恥ずかしいからやめてよお父さん!ほら礼ちゃん、魚を見てこうよ」


 父の言葉を遮り、 唯は礼の手を取り店の奥へと歩いて行く。


「ゆっくり見てってくれよ。小せえ店だけどな~!」


 雷蔵は仲睦まじげに歩いて行く娘と、その友人の背中を見送る。


「青春してんなぁ、唯のやつ。俺も友達とショップに行くような学生生活を送りたかったぜ……」

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