物故右衛門

第1話 輪廻

夢を見た…いくつかの時代いくつかの場所…。

最初に僕は鴉天狗だった…武器を持たぬ白鴉。

嘴は万物を直し…爪は万物を戻す。


相馬小次郎将門の討伐。

織田三郎信長の自刃。

板垣征四郎と舌戦。


「懐かし…」

目が覚めての第一声はそれだった。

夢では無く確かに僕の経験した事だ。

弱者の為、強者に弓を弾き世を混乱させた友。

幾時代を超え止めて来た。


現代でも何か起こるのであろうか…。

現代?

平安や江戸も後世の人間が付けた名前だし“今”は何時代と呼ばれるんだろうか。

などと考えているとピピピと目覚まし時計がなった。


吉美滝高校2年、スポーツ特待生として田畑の広がるこの片田舎で一人暮らしをしている。

種目はクライミング、まぁ成績はそこまで良い方では無く田舎の振興とか政府の補助金とか色々大人の事情で抜擢された感じだ。

「うわぁ…髪の毛酷いな…」

鏡に映った色白で白髪が逆立った自分を見てつぶやく。

寝癖…と言う訳では無く輪廻が原因で一種の興奮状態にあり白髪が逆立っている。


そう、僕はアルビノである、そのおかげで子供の頃から奇異の目にさらされて来た、だからこの田舎の特待生の話に飛びついたと言う訳。


しばらくしたら落ち着くだろう、身支度を整え学校に向かう。


「上八木くんグレたのかい?もしそうだったら逮捕しちゃうよ、ハハハ」

登校中に声を掛けて来た顔見知りの景観に茶化されたり、笑われたりしながら少し気恥ずかしい登校となった。

見た目のせいもありだいたい僕の事を知っているし、少なからず期待もしてくれていたり、気さくに接してくれる人たちだ。


「しらがのにーちゃん髪爆発してるー!」

小学生、同級生の弟で名前は景良くんだったかな?に盛大にバカにされる。

「いつも言ってるけどシラガじゃなくて…」

「しーらが!ばーくはつ!」

話を聞かずに踵を返して掛けて行こうとする。

「あッ!」

足元が絡みこけそうになる。

僕の頭から出た翼が少年を受け止め体勢を戻す。

景良くんはこけなかった事を不思議そうに足元を見てベーっと下を出し駆けて行った。


蠗(ジョウ)…人の目には見えない力だ、頭から出ていて現代ではオーラと呼ばれるものに近い、オーラの色が見えるなんて話もあるので感じる事が出来る者もいるのだろう、気合を入れると実態を持ち翼を成し空も飛べる、こんな風に。


「せーのっ!」

久しぶりに空を飛ぶと気持ちが良いものだな。

髪の毛が逆立っているのは蠗が噴出しているからだ。

昔であれば頭巾や結うなんて事が出来たが…。

争いが起ころうかと言うのに髪の心配をしているのも滑稽だが、色々考える事はあるな。

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物故右衛門 @bukkoemon

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