終章
2EEE#年RE月F日
自分の力で狂気に至ることはできないと
思い知った
体だけが先行して、心はいつまでも追いつかない
苦悩の堆積層
外郭の厚みは割れ目が細く走る
ただの視覚的なヒビだが、私の耐えがたい痛みとなって
小刻みに震えている。
ヒビでしかない薄い傷は、ただの景色に認識されて
共有することも叶わない。
人間の体が成長する速さで心は育つものだから
私の心は随分と老いてしまった気がする
何も見たくない
過労の苦難で切れた唇を
濡らす涙が止まらない
少し眠りたい─
何もないひと時に佇んで、休むべきだと思った。
家無しの同居人から聞いた都内の雑木林に行って
有名な自殺スポットの集会に同行した
前向きに死のうとした表情の彼等に
疲れた表情を見せて水を差すまいとするのに必死だった
穏やかな空気のなかで目を瞑って
昏倒の昼寝を味わう
うだるように暑い車内はノドが渇く
先に起きてから他に誰も起きないのを確認した
起こしても反応のない赤い体達
彼等の持ち込んだ睡眠薬をくすねて
残りを
全部噛み砕いてのんだ
赤い視界にせめて献花を添えようと思い立ち
膝立ちのまま手を組んで
献花台に積載する赤い群れを眺めた
記念すべき果ての姿に触って傷つけたくない
彼らが寝る前に話していた身の上の話を思い出して
このまま眠り続けてほしいと神さまに願った
私も眠るために、持ってきていたポケットナイフで
縦にノドを刺して眠った。
過剰な薬の効果なのか
珍しい長い眠りを味わうことができた
2*7/3年㈢月◎日
寝泊まりしていた公園が封鎖されていた
あの日倒れ伏した私を誰かが保護したらしく
清浄な室内の空気に気分が沈みそうだった。
死んでしまった私以外は
無事に埋葬を終えたと聞いた
火葬の炎の煌きを観てみたかった
と思えばきっと─
ひどい抑うつだと宣され
病室の片隅に幽閉されて抗うつ薬を飲む生活
口にする度水欲しさに舌が貼りつく
退屈な時間が引き延ばされて血の中を栄養が循環する
そんな日々
………
寝て起きるのに飽き飽きしています
ずっと寝るための睡眠薬はないのですか
どんなに服用したって構わないから
私の願いはもっと単純なところにある
死ぬこともできないなら
ただ私は眠りたいだけ
いつの間にか
私の前に、親になりたいと申し出る人が現われて
もうずっと前に伸びたばかりの髪を切ろうと言った
爪を整えて 化粧をして
幼くなった私の身を引き取ると
知らない名前を名乗るようにと告げた
私は人形として過ごすことを選んだ。
親と一緒にたくさんの人と会って
着飾った私は話をする
会う人が受け取る商品と同じものが欲しいと言ったとき
父親は私を思うまま殴りつけて拒否した
母親は泣きながら私を抱きしめた
「あの人に直接言ってはいけない
今日みたいになるよ
私が渡すから今度からそうしなさい」
私の症状は少しだって改善していないと言って
退院後も睡眠薬を貰い続けることを
母は許してくれた
喉が渇く。
私の服用する薬の分は
父の不在の隙に商品をくすねて出してくれた
その薬は激しい多幸感をもたらした一方で
嘔吐するように気分の高まりが勝手に口から溢れさせた
そんな作用のことはどうでもいい
効用が切れて意識が戻るまで、私がこの世にいなかった自覚をもったとき
はじめて死ぬ思いで狂おうとしたあの日以来の笑顔が戻ってきた
可能なら起きている間に夢でも見ていたかった
私の願いは薬の数を増やしていく度に叶う
私をいくら傷つけても構わない
この体が治そうとする早さを追い越して
私を壊してほしい
いつだって喉が渇く
2!√6ԛye年ⅹ①月□日
薬を服用するようになって
時間の間隔が飛びとび消えていっている
手のひらの肥大した父が
部品の撹拌された顔で私を握っている
白色の部屋で輪郭の凹凸の関係性が映る
声は真っすぐに私の頭を突き刺す
緑色の半粘土に話しかけていく
喉が渇いている…
怖さはないのに震えてたまらない
平衡感覚の羽根が蒸発していって
誰かに縋ってでもいないと寂しさで叫びそうになる
私の体を虫が這い回っている
こそばゆい
痛い いやもっと
砕けて粒になって、正気を失えたままでいれたらいい
胃汁の苦い唾液がずっとしている
喉が渇いている。
2■恒′\″∬年淕″°月℃㈧日
腕\の傷が/増え6て/いる私1'は欠74かさ+;ずに"_薬を&飲むの5を仝6や℃±めな4いB目\乂が6つ並=んだ人#6型の顔㋒で私≪を力い1っ✓0ぱい殴8-る肉=を穿つ音薄+い。皮膚が.赤くⅣ!色づい↓た私の生気を欠┻い҈縲':た四肢∽のҊ҂付け.根が寒さ◎ⅷで悴んで強ばる。冷気◆カばかり感じる.薄H着|のまⅹまでく・すんだキャミソ(ール着た私Tのやせ細った҇҇白い┣腕が掴)まれている握ワって私」か➄ら引き⅗ちぎる:つもりな*Fんだ指賣数"の少ないҮ鬼面.の々木 ̄像Cが軋縲りRを少しずつһあ←げてあ↑あいいっNている痛いなあ瘰坏球体関節Q″の㋛ように■゜取れてしまったら困・って●しまう㈡のに多々眼の面前ⅱに力なく体を投げ┬るしかない自分に╂異様に膨҉張←していӀるӏ』股間Ꚃを〔見つyめKた濁I&)㍉▼た灰\色Aの咳が゛涙の倂代わりにь出^た対M(イして彼は私を犯すつもりなんだろ〕う肉薄し㋤た㌻声が引き攣Kって▲うな#り声だ□テCけが低"くゝ轟いѕている後ろでずっ●と私の₃ことを҇「見ていた㋓誰かがいたお*○父茗さんU私を見㌫ないで。助゙産師の窶母親が足њだけで歩く⁴股G関♢節の出で立湃ちでわらっている後㋤ろで私のイ父親が直㈥立で҇҇貼り付けらⅹれていた。\となりで顔のモ■ザイク┤処理を.㋕されたM人が私を見てル慌てたよ҆うに立丐っている∃彼女の奥行がたった㍍3cmもないのがおかしくてⅹ好³ましい気持ちに侵さ挊れてKいるのにも瓣気を許していた″″素晴ら㋡しく暗惨た儷る’気ま〝ぐれのо流れい⅖くさき↓の想纛҇҇҇像股の間から血が流れ褪せた声のJ吃音が響奐いた此岸で∀真っ赤なⅹ景色',に┻@覆҂われ→た急な眠気でпⅱ空っ㋟ぽ㈡の意識が石を҇つめる卞のを㌧やめ₁た端かсら兮蚊の鳴ⅰくような煩わҚしさ‥でさнざめく,#涙のにがりの味が冷めⅰ(たく体に塗り‹わたった
ああ喉が渇く
誰の顔にも既に処⊿理が行われたみたいに《情報が何もない目の前》の増粘ゞ/体*が私を見てと~びきりかわいい㌘|と讃める声が後ろか’ら+聞こ§えている。^寝℡て\も㍻醒&めても私₁〕の’前にいなeい生-Tき物の・声n全>㍗部の声を耳が:ᗩ҃拾う寝ていた気がしない私.のなか内の〝肉が緊҇張で(強ばっているの体が引っ張〟┤₂るよ҄㏄う/にU私の健常..ゞな精神Dの・戸を҄叩いた私の)体を塗りd,広げるGよう"にいくᑫつ″かの手′が這う懸命に這ってい〒るᖻ҆甲%と乙の唾液が混ざ)って,ジャ@ムの様に粘瀛り広げられる。私と‥誰かの味がする
意識がはっきり浮上してきた
苦い、生臭い 私の日常は最悪の心地しかしない
えづいて出てきたペリット
胃液を混ぜてノドの肉を剝がして出てきた
唾液と絡まれた舌が歯で咀嚼されて傷ついている
ひたすらに空気に晒される、鳥肌が立ち痙攣が終わらない
体の興奮がしばらく止まなくて、震えるままに鬱屈な気分の私を
体感してしあわせでたまらない
干からびてしまいそう、薬が無いといつも正常だ
喉が渇いている
2§饋Ⓓ秊*顋月㋢日
道という道を走る。足が軽い苦しさを押しきって体をどんどんと前に進ませる。このまま進み続けていけば逃げ切ることができそうだ。ずっと追い続けている真っ黒な影の伸びた黒い昆虫の群れがすぐ背後に張り付いている、嫌でもこの足はとめない。ノドが熱い、耳が風の雑音を拾うばかりでこめかみが痛みでスカッとしている。渇いている。水も無い粘膜のうねりばかりを感じるのは生き臭い気持ちで悪くない。重くても手放す気のない私の片手で後で食べるための兎を二頭掴んでいる。段差崩れの朧げな像が叫ぶ。走る。でも私のほうがいくらでも疾い。けたたましいサイレンと鈍色の粒がくっ付いて跳ねる道中、一発が私のお腹に刺さった。もう一発は頬を貫通した。赤丸のビー玉を口から飲み込んで、真っ赤な匂いに包まれる。それでも止まらない。先に先に進むえんじ色に塗られた風景を、白い集中線の真ん中を走る。さっきからノドが裂けそうに鼓動している。渇いている。
靴が破れて底から踵の悲惨な筋走った傷が見える。森の中を這いながら登るようにして超えていくと、私の姿がだんだんと消えていって何も聞こえなくなってくる。足裏で掘り起こされた土から覗く根っこが、何度も彼の顔を泥に食わせる羽目になるけれど…回りながらでも下に上に前へ前へ進む。細いふくらはぎが笑っている。足が沈む。掘った跡のミミズの形、濁った外灰の漂う視界を振り返る。水の中。泥濘んだ足が滑って反転した後ろを見る。兎の目が誰かの目と重なる。鬼のように苦しそうな表情で固まる兎の目。桜色のキレイな鼻が舌から突き出して伸びている。上から泥が引っ付いて首を絞め殺された兎の耳はまるで退化したかのように丸まって短い。そういえばこの兎は一切毛が生えていないのだな。黒い蠢きが兎の背中から飛びかかって、小さい牙が皮にかぶりつくのを見る。一瞬で兎の首は黒い群れの餌になった。ああ動き出す準備が整った。僕はまた走る。立ち上がってふらつく足は自分の思うよりも一周り大きい。見える景色がブレていく。喉が渇く、喉が渇く。風のひと際強いところに出た。羽も持たないバケモノの体で彼が空中を踊るように両手で漕いで飛ぶ。新海の白砂は輝かんばかりに周囲を覆う。真っ白過ぎて気持ちが悪い。走ることができずに足が今までの負債を全部載せて止まっている。業風の吹く中、浮いているように落ちている。持ち上がらない体でひたすら彼の進むつま先をみる。砂粒の塊が真っ白な昆虫の背中の羽で煌めいているのを見た。犇めく白虫の群れが迫ってくる。もうすぐ落ちる、着いたと思った瞬間地面はすぐ目の前にみえていて──狭い空中が映りこんでいる黒い木々の中で何もできずに倒れていた。真っ黒な炭の虫が私の背中にずっとひっついている。潰れた哀れな虫の体液から草の匂いが立ち込めている。まっ黒な森の中、どうしようもなく立てない無力感が私を仰向けに縛り付けていた。何もない、渇いている。ノドが数百年ぶりの水を求めてとびきり強力な痛覚をつねった。水がない。水で飲み込む薬がない。どうしてこんなにも潤わないのだろう。膝から骨が突き出している。体を支えられずに足から次々と多色の水が出てくる。あれは初々しい思い出の色。あの黄色は懐かしい踏切の色。すると横から巨大な電車が倒れ伏した私に向かって飛んでくる。目線が地に近いと、あの車輪がひと際大きく線路の上を噛み締めているのがわかる。あの日の彼はうつ伏せだったな。不気味に遠くから唸るような声だけ聞こえて、彼は何を思っていたのだろう。強い俯瞰の目線が像を見据える。手が車輪に触れる刹那。私の手の皮は引きちぎられ、勝ちようのない重機がぶつかる感覚さえも与えずに腹の上を容赦なく踏みつける。良心的なブレーキの金切り声は聞こえない。皮を裂き、肉を断ち、見たことのない肋骨の生え出る様をみつめる。圧力で弾ける液体の噴き上げを真下で見つめる。コンクリートに染み込んで血が進む。レールを交差して静かなせせらぎを作る。衝突のあと、電車は私を轢くと透いた形になって消えた。片目の粘ついた傷痕の骸をそっとなでる。あああった筈の腕がない。きっとどこかで落してきたんだ。黄色の膿が涙のようにつたって落ちていく。黄色はウミの色。大海の血だまりを虫が啜る奇妙な音が響く。プロペラが回転するようで木々のそよぎに紛れてしまいそうな音の輪唱。たくさんの散らばった赤色はいつまでも失い続ける思い出の色。水色は私の中にはない、あの水たまりは空を反射したただ空虚な透明の色。緑色の水は万年私を苛む病原菌の死滅した粘膜の色。また空っぽになっていく。全部抜けていくんだ。あとは誰かが食べてくれたなら。
底抜けて明るい空をうわの空で見つめていた。
おとし穴の底から眺める白いスクリーンに
まっ黒な点が映った
それは点を増やし、視野の下から
まるで胡麻を散らすように飛んでくる
カラスだ。大群だなんて珍しい
そう思ったら
一周り大きい鴉が側へと降り立った
その瞳の生々しさをみた瞬間──
思い出した 私を食べていったあのカラスだと。
鴉は私の目を見る
ただ静かに私を見つめた後
すぐに羽ばたいて去っていった
もう
あの黒い群れは私を見ていない
待って
伸ばした手が私の視界に入り込んだ
背中を起こせた、私の身体は元に戻っていた
全部が元通りになった。
不老の鴉が、巨大な群れを率いて飛んでいる
切れ目などないように続いていく
その姿を私はみつめていた
私と全く異なる道で生きる動物の姿を
立ち上がった身でただ見ていることしかできなかった
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