そして、慌ただしく稽古時間が過ぎ午前の鍛錬が終わろうとしていた時、やおら白下先生が皆に告げる。

「いよいよ明日が審査となります。今迄修練してきた成果を、思う存分発揮してください。培ってきた行射をきちんと行えば、矢は間違いなく的に向かって飛んで行きます。ですから焦らず、平常心を持って弓を弾いてください。弓矢は正直です。心が伝われば必ずよい方向へと向かいますので、健闘を祈ります」と最後の檄を飛ばした。

すると、観念したのか高橋が呟く。

「ああ、とうとう来たか。泣いても笑っても明日が審査だ。頑張るしかないな。今晩は酒でもかっくらって早寝と洒落こもうか。体力温存と言うことでよ」

白下先生を含め午前の部で鍛錬を終えた者たちが、国旗と神棚に向かい一礼をして修練を終えた。

帰り支度をし、「有難うございました」と挨拶をし、弓道場を後にしようとした時長谷川から檄が飛ぶ。

「明日、頑張れよ。今迄積み重ねた稽古は、決して無駄にならないから。後は運を天に任せチャレンジしてください!」と力強い後押しを受けた。

心の奥で、じいんと熱いものが込み上げてくる。

「やっぱり、持つべきものは友だ」しみじみとし頷く。

すると長谷川が、「まあ高橋さんの場合は、その容姿ではハードルが高い気もするんです。だからこの際今夜は酒も飲まず、絶食するくらいの気持ちを持つことが肝要だと思いますよ」

冗談ぽく言うと高橋が反発する。

「はい、ご忠告有難うございました。明日は精々頑張ってきますので、応援してくださいね。今さらじたばたしても始まらないし、観念して審査に臨んできますから」

「ようしっ、一世一代の大舞台だ。本気モードで頑張るか」と、腹をくくったのかチャレンジモードになっていた。

「さて、帰ろうかな。明日の審査は何とかなるだろうから、頑張ろうと!」

その言葉を残し、緊張した面持ちで弓道場を後にした。



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