三
それでも時間は刻々と過ぎて行く。審査を受けないと宣告していた長谷川は、そんな二人を前にゆうゆうと行射に励む。
「おお、また中ったぜ!」と気勢を上げる始末だ。
すると、その様子を窺う高橋が羨ましそうに「いいよな、長谷川さんは。何の悩みもなさそうで、プレッシャーもねえんだからよ。羨ましい限りだ」さらに、ひねくれる様に
「どうせ俺の気持ちなんか、分からねえだろうな。初めて挑戦する身だぜ。替われるもんなら、替わってもらいたいよ」とこぼす。そして、とんでもないことを長谷川に提案する。
「なあ、長谷川さん。明日の審査なんだけど、俺の影武になって替わりに受けてくれえか」
有り得ない依頼に、長谷川が驚き拒否する。
「何を馬鹿なこと言ってんだ。そんなこと出来るわけないだろう。審査は厳格なんだぞ。それに俺は高橋さんと違い、スマートで且つ美男子だ。それに比べ、高橋さんの姿ときたら短足でがに股だ、似ても似つかねえからバレルに決まってら!」長谷川の剣幕に、
「ああ、悪うございましたね。どうせ私は足は短いし湾曲していますよ。でも、この体形でもいいという女性は、あまたいますからね。それに比べ長谷川さんは、腹が出ているし顔も俺と比べると今一つだ。そんな人に言われたんじゃ如何にもならん」と嘘ぶき、あっけらかんとして「明日は、精々頑張るとするか。こうなったら、破れかぶれだ。この際ボランティア活動のように老人ホームの舞台で、ウクレレ伴奏のハワイアンを唄う気持ちでチャレンジしようかな」関係のない事例を出し、「この際胸の中で、平常心、平常心と唱えてやってみよう。後は神様が決めてくれる」手を揉み重ね「ああ、どうぞ神様、仏様。初段審査が上手く行きますように。如何かお力をお貸しください」と、終いには神仏に頼る始末である。これには、長谷川や市川も呆れ顔になっていた。
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